想いに応える

一つひとつのソリューション どこにもない病院 東海大学医学部付属病院 今までならこうしていた、という発想を捨て、全てをゼロから考え直す。そして、変化する状況に最大限対応可能で、常に新しい価値を創造し続ける「どこにもない病院」を創る。これが、お客様の「想い」でした。

設計チーム主要メンバー

竹村和晃

建築設計統轄部医療グループ長
(本件のプロジェクトマネージャ)

有賀雅尚

建築設計統轄部医療グループ主管

鈴木誠一

エンジニアリング部
情報ソリューションチーム主管

どこにもない病院とは

―早速ですが、「どこにもない病院」とは、一体どんなところが「どこにもない」のでしょうか。

竹村うーん、挙げ始めるときりがないくらい『どこにもない』ですね。(笑)

有賀オペ室・ICU・救命救急センター・検査室・PFM・スタッフステーション・・・ハード(建物)だけ見てもたくさん挙げられますね。

竹村ソフト(病院運営)を見るとさらに『どこにもない』だらけです。根底にある考え方が、そうさせています。

―それはどんな考え方でしょう。

竹村今までこうしてきた、とか、こうするのが常識、といった病院設計におけるセオリーを全て取り払い、ゼロから見直す、とう考え方が根底にありました。

入退院の管理を行うPFM(Patient Flow Management)部門

―そうやって常識を取り払って設計すると、どこにもない病院になった。といったところでしょうか

竹村そうですね。結果的にそうなったんだと思います。
でも、ゼロから考え直す、などと口で言うのは簡単ですが、いままでの常識に頼らずに設計するということは並大抵のことではありません。

有賀これが常識です。ほかの病院もみんなこうやってます。という説明が通用しないんですよ。
これはツラかった。(笑)

竹村何か考えるためのよりどころが必要でした。
そのよりどころが、EBD(エビデンス・ベースド・デザイン)でした。

EBD(Evidence-Based Design)とは

―EBD・・・聞き慣れない単語ですが、どういった意味でしょうか。

竹村我々の造語です。
医療の現場には近年、EBM(Evidence-Based Medicine)『根拠に基づいた医療』という考え方が浸透してきています。最後のMをDesign(設計)に変えて、EBD『根拠に基づいた設計』とし、この考えをよりどころにゼロからデザインしていったわけです。

―根拠に基づいた設計ですか。でも、過去の常識や経験を根拠としないわけですから、その「根拠」とはいったい何なのでしょうか。

竹村まずは現場。医療の現場そのものにどう設計すべきかの根拠があります。
たとえばスタッフステーションのプランは、そこで働く看護師や先生の方々と、人の動線・モノの動線をどうするのが一番効率的なのかを徹底的に話し合います。

有賀ただし、病院スタッフの方々も我々と同じく、ゼロから考えるのです。
看護師の方も、検査技師の方も、先生も。
今まではこうやっていたけれども、役割を変えたり場所や時間を変えたりして、最も効率的な手順を考え直すのです。

現場と徹底的に話し合う

CTスキャンとMRIが血管造影査室をはさみ連結しているMRXO

手術室の新しいスタンダード『コンバーティブルな手術室』

―『どこにもない』という例を少し具体的に教えてもらえますか?

有賀数字で言うと、病床の数に比べてICU(集中治療室)や手術室が異常に多いです。成人用ICUだけで80ベッド、手術室が22室。MRI(磁気共鳴画像装置)がずらっと6台。

竹村MRIは、普通多くても2つですよ。病院設計の今までの常識では考えられません。ICUなどは、儲からないから経営的には少ないほうが良いと信じられてきましたし。

―東海大学付属病院は、「救急車を断らない病院」として有名で、救急患者が日本で最も多いと聞きました。

有賀救急車による搬送だけで年間約1万件です。救急車からストレッチャーで土足のまま3階の手術室まで入れるんですよ。
普通はオペゾーンの前で、完全消毒された着衣に着替えたスタッフにバトンタッチします。

―土足で入ってしまって大丈夫なんですか?

有賀床の汚れは手術による患者さんへ感染とは実は関係無いんです。つまり手術をする部分、術野といいますが、そこがクリーンであれば患者さんには影響がないという考え方で、靴を履き替えないことから『一足制』と呼ばれています。一足制にすると、人だけではなく、手術用の機材などの出し入れが非常にスムーズになります。手術室にはそんな『どこにもない』が満載です。

竹村例えば、脳外科、心臓外科、整形外科など、それぞれの手術によって要求される環境や設備が異なるので、それぞれの科に最適な手術室を設計するのが今までの常識です。
しかし、それではたくさん手術室が空いていても、科が違うという理由で待たされてしまう患者さんが出てきてしまいます。
建物の都合で、患者さんを待たせてしまう――特にそれが手術なわけですから、命にかかわる待ち時間なわけです。
限られた手術室と時間の中で、できるだけ多くの手術をこなすにはどうしたら良いかを突き詰めると、科別の手術室という今までの常識を変えなければなりませんでした。

『どこにもない病院』には、科別ではなく、あらゆる手術に対応できる汎用手術室、『コンバーティブルな手術室』が必要だったのです。

あらゆる手術に対応できるコンバーティブルな手術室

どこにもないオペ室を作る

究極のEBD『モックアップ』

竹村一般的に、手術室は長方形です。真ん中付近に固定された手術台があり患者さんがそこに横になりますから必然的に長方形になります。
しかし、この病院の手術室は7m×7mの正方形です。頭の手術も足の手術も同じ手術室で行えるようにするには、固定された手術台では不可能で、可動式の手術台が必要でした。
その上で、いろいろな手術パターンを検討していくと、正方形の手術室が最適という結論に達しました。

しかしそれはあくまで机上の結論です。本当に『コンバーティブルな手術室』で様々な術式の手術が可能かどうか、最終的に実際に手術を行う各科の先生のエビデンスが必要でした。そのために『モックアップ』という手法をとったのです。

―モックアップというと、実物大模型のようなイメージでしょうか。

有賀まぁ模型といえば模型ですが、本物で作った模型です。あと患者さんがいて酸素があればオペできると先生たちは言ってましたよ。(笑)

竹村愛知県小牧市に作りました。述べ4日間、毎日100人近い関係者が集まり、20種類以上の模擬手術を行いました。可動式手術台と最適な無影灯の位置関係、その無影灯による気流の乱れと術野のクリーン度の関係、医療機器からの配線とスタッフ導線の干渉、手術室前の機材スペースや手術室番号の表示方法、床材の貼りわけ方まで検証しました。

全て本物の医療機器を持ち込んでのモックアップ

机上の気流解析シミュレーションをモックアップで検証

―床材の貼りわけですか?

有賀先ほどお話した『一足制』ということと、手術台が可動式ということから、クリーンな清流範囲を直感的に認識できるように、床材を2色に貼り分けました。術野を確実にクリーンな清流エリアに入れるための工夫です。最終的に、最も広いスペースが要求される心臓外科手術でさえも、この7m×7mの手術室で可能であることが確認され、エビデンスと大きな自信を得ることができたと思います。

竹村エビデンスマインドに基づき、手術室だけではなく、病室、スタッフステーション、ICUなど様々なモックアップをしました。誤解のないように言っておきますが、どんな建物でもモックアップを作るわけではありません。どこにもない病院を創るという、お客様の強い想いと、それを建物へとつなぐ情熱があったからこそ実現できたと思っています。

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