想いを築く

Zoom UP 現場 (仮称)ay-museum project

京都府京都市地図

“ゼロタッチ”の納まりで、
唯一無二の建築をつくる

例えば柱の納まりだけでなく、それと接する天井や床、建具まで含めた関係性が厳格にルール化された設計。
人のつくり込みでそれを具現化する現場を訪問した。

(仮称)ay-museum projectとは

京都・嵐山といえば、桂川に架かる渡月橋がイメージとして浮かぶ観光名所である。
実際、梅には早い2月上旬にもかかわらず、嵐電嵐山駅前から渡月橋のたもとへ、さらにそこから右に折れて桂川沿いを歩く数百メートルは、着物で着飾った女性や外国からの観光客で大変な賑わいであった。
今回訪問したのは、桂川に面したこの景観豊かな場所で昨年3月から行われている美術館の建設現場である。この美術館は、ある企業の創業者が収集した日本画数百点を個人の地域貢献として展示するもので、設計は建築家の安田幸一氏。箱根のポーラ美術館を手掛けたことで知られる安田氏は、ここでは伝統的な和の建築要素を用いながらも、それらを現代的で洗練された意匠として構成している。

クリアランスのない建物

イメージパース対岸より躯体がほぼ組み上がった現場を歩きながら高口弘史作業所長が工事について説明してくれる。
「完成図をご覧いただくととてもシンプルに見えますが、設計者が綿密に検討したこの美しいデザインを実際の建物として実現することが、簡単なようで非常に難しい。正にこれが工事のテーマなんです」。(高口作業所長)
一体それはどういうことか。一般的な建築には、各部に施工時の冗長性を持たせるための“遊び”が設けられている。身近な例を挙げると、壁に設置される巾木は壁の下部を傷から守ったり、床材と壁材の動きを吸収する隙間を隠す役割を担っているが、同時に施工上の微妙なズレもこの部分で隠れているケースが多い。ところが余分な要素を切り詰めたこの建物にあるのは機能上最小限の必要な部材だけ。そしてそれらはすべて逃げのない納まり、つまり“ゼロタッチ”で設計されているのだ。
凛とした佇まいを目指して描かれた設計図を建築として実現するためには、現実世界の設計寸法で完全再現しなければならない。この建築には精密機械のような精度が求められているのだ。
「なぜ建築にこれほどの精度が求められるのか。そこにこそ安田先生の思いが込められていると私は考えます。一体どうやってつくったんだろう。これはそういう特別な存在としてこの建築を生み出す挑戦なんです」。(高口作業所長)

最小限の要素で構成する難工事

工事現場写真ゼロタッチは、最初に展示室となる箱型の部屋を鉄筋コンクリートでつくるところから最後の仕上げまで、工事の全段階で求められる。それを象徴するのが長手方向に2メートルピッチで並ぶ鉄骨柱と鉄板庇に関わる工事である。通常の建物では構造を担う柱とガラスカーテンウォールを支持するマリオンは別々に設けられる。しかし、この鉄骨柱は躯体であると共にガラスを支持するマリオンの役割も果たし、さらに1階と2階それぞれの屋根レベルで斜めに折れて、1枚板の屋根や庇を支える梁の役割も担う。そのため、この1本が各方向にほんの数ミリずれるだけで、本来水平となる庇が暴れたり、後工程でガラスが入らなくなったりする。またこの鉄骨柱や屋根の鉄板の内側などは仕上げとしてそのまま見えるため、一切の妥協が許されない。このようにこの現場では一つひとつの部材について、その位置を厳密に測りながら、人の手で慎重に組み上げているのだ。
これから工事は内装、そして仕上げに入っていくが、床のコンクリートの型枠と壁のステンレスパネルのラインをすべて合わせるなど、“逃げられない仕事”が完成まで続く。
「この工事は単純にマンパワーをかければ作業効率が上がるというものではありません。設計意図をしっかり理解した社員が職人さんと一緒になってそれぞれの部位のつくり込みを積み重ねていく必要があります。施工効率の目標値として、以前大阪支店が施工した京都国立博物館は平米あたり3人でした。今回は最終的に平米あたり11人程度かかりそうです。とても高いレベルの品質が要求されていますが、完成まで現場一丸となってがんばりたいと思います」。(高口作業所長)
嵐山が紅葉で賑わう頃、この場所に新しい名所が誕生する。

技術ポイント

鉄骨柱と鉄板庇を設計図通りに設置する工夫

鉄骨柱と庇などが関わるファサード部分は、事前に計算やモックアップによる納まりの確認を行ったものの、実際の工事でこれらを設計図通りに設置することは困難を極めた。
まず鉄骨柱はクレーンで大まかに置いた後、設計位置に配置するために考案・制作した仮設の梁やブレース(写真の朱色の部材)をガイドとして、慎重にその位置を決定・保持している。
この仮設材は屋根やガラスなどの設置用に設けられた穴を利用して固定されている。
また最大2メートル弱も張り出した庇は、長手方向に10スパン連続させたところ、軒先のたわみにばらつきが発生した。これに対しては構造設計者と検討を重ね、視覚的に完全に水平となるよう調整を行っている。

ファサード部分写真

《現場社員コメント》

八木係員写真

八木係員設計事務所の意図を確認しながら、各部を担当する社員や協力会社に工事のポイントを明確に伝えることを心掛けています。

中村係員写真

中村係員鉄骨工事の担当です。通常は数ミリの許容値の範囲で鉄骨を据えていますが、ここでは1ミリの妥協もなく作業しています。

深澤係員写真

深澤係員展示室1階の天井となるPC版は、各版の間の目地を35ミリに統一するために、1枚1枚卦書(けが)きながら慎重に設置しました。

進藤係員写真

進藤係員展示室のRC躯体工事を担当しました。完成後、貴重な展示品に漏水被害が発生しないよう、ひび割れなどを慎重に確認しました。

武田係員写真

武田係員現場の事務を担当しています。その都度先輩方に見ていただくことで、自分の仕事の精度がより高くなるよう心掛けています。

《作業所長コメント》

高口作業所長写真

大阪支店 建築工事部工事4室
作業所長 高口 弘史
精度や納まりが命となる建物をつくる中、日々の仕事で壁にぶつかり、「これは無理だ。できない」という言葉がつい口から出ることもあります。私がこの現場の方針として社員に伝えているのはそういう言葉を口にしないこと。「どうしたらできるのか」。まず自分自身でその方法を考える。そういう姿勢を大切にしています。

工事概要

集合写真
工事名称 (仮称)ay-museum project 概要
敷地面積
1,982m²
建築面積
692m²
延床面積
1,193m²
規模
美術館棟 : 地上2階、地下2階、S、RC造
カフェ棟 : 地上2階、S造
工事場所 京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16他
発注者 (株)AMG
設計・監理 (有)安田アトリエ
(株)イーエスアソシエイツ一級建築士事務所
施工 当社単独
工期 2017年3月〜2018年9月 用途 美術館