2000年8月1日

地震観測により制振性能を実証

 戸田建設(株)(社長:戸田守ニ)は、風・地震揺れ対策のためのアクティブ制振装置を制御するアルゴリズム(算定方法)として、新たにH無限大制御を利用した制振システムを開発した。

 同社は実績として既に高さ154mのタワーへ、戸田式アクティブ制振装置(TOM-APMD)を採用し、高い制振性能を実証しているが、このたびH無限大制御を利用することで、よりシンプルで安定性に優れた制振システムを構築することができた。

 今までの制振システムが、複数個のセンサーの建物内への設置と、それに伴う複雑なケーブル配線や、外部からの信号雑音などの影響に対処するため、多大な労力と費用が必要だったのに比べ、本制振システムは、制御装置の近くに設置した1個のセンサーによる情報のみで、従来方式と同程度以上の性能を確保でき、コストをより安価に抑えることが可能となる。

 新たに開発したH無限大制御に基づく本制御方式の特長は、建物系の持つ伝達関数に、制御したい周波数帯域でのみ低減できるような重み関数を掛け、その伝達関数が最小になるように設計した制御アルゴリズムを制御システムに組み込むことで、建物の揺れを低減する方法。
 この制御方式は、対象とする周波数帯域の揺れのみ制振することを可能としているため、建物最上階に設置した1個のセンサーの情報で、建物の複雑な揺れを効果的に抑えることができる。シミュレーション解析により従来の制御方法との性能比較を行い、同等以上の制振性能を有していることが確認された。

 開発した本制振システムの性能を実際の使用形態で実証するため、同社の技術研究所(茨城県つくば市)に建設してある実物大の制振実験棟に適用し地震観測を実施した。実験棟1階で震度3程度の揺れを観測した地震に対して、建物最上階の揺れの最大値は、制振装置がないとした場合の非制振時に比べて1/4程度に低減され、揺れが大幅に減少することや、後揺れを抑えるなど優れた制振効果を発揮することが確認された。

 今後、風・地震揺れ対策に対して、居住性能レベルの要求が高い超高層ホテルや、超高層マンションなどの物件に対して、今回開発したH無限大制御による制振システムを導入したアクティブ制振装置を提案していく予定。

 【補足資料】
 発生頻度の高い強風や、中小規模の地震に対する建築物の揺れを制御する制御方法には、受動型(パッシブ)と能動型(アクティブ)があります。

 「パッシブ制振」では、バネマス系(バネとそれを介して載せた重なりから構成される装置)で、固有振動数を建物の振動モードにチューニングし、建物の揺れに重なりを共振させ揺れを低減します。この方法は、チューニングした建物の振動モードだけしか効果はなく、建物の振動が大きくならないと制振性能が発揮できないなど、制振性能には限界があります。

 「アクティブ制振」では、建物の揺れを感知して、コンピュータ制御による抑制力を加え、揺れを低減します。「アクティブ制振」の方が「パッシブ制振」より明らかに優れており、制御則(制御の算定方法)の設計によっては、建物の複数の振動モードで制振することができます。

 本制振装置は、バネマス系で固有振動数を建物の振動モードに同調させたパッシブ型マスダンパに、油圧アクチュエータ(油圧駆動装置)で制御力を付加するものです。可動質量をアクチュエータだけで駆動するものに比べ、エネルギーが少なくて済み、装置がコンパクトになり、経済性にも優れています。

 既に開発済みのアクティブ制振に用いていた制御器は、LQ制御を適用していました。この方法は、1つのマスダンパで複数の振動モードを制御する場合には、モード分解や状態変数(速度・変位)が必要となるため、積分回路装置や複数のセンサーが必要です。

 新たに導入したH∞制御理論(H無限大)に基づく制御器は、建物系の持つ伝達関数に、制御したい周波数帯域でのみ低減できるような重み関数を掛け、その伝達関数が最小になるように設計した制御方法です。この制御方法ですと単一のセンサーで、建物の複数の振動モードが制御可能となり、センサーの数が少なくて済みます。

〔H∞名称のHは、イギリスの数学者Hardyの頭文字で、∞は数学的には指数無限大のHardy空間を意味します〕

制振システム

以上