2019年1月8日

戸田建設(株)(社長:今井 雅則)と(株)Rist(社長:遠野 宏季)は、山岳トンネルの発破掘削工法において、発破後の飛石(発破飛石)の形状※1をドローンで撮影したデータから、発破の良否をAI(人工知能)により判定する『発破良否判定システム:Blast Eye/AI:ブラスト・アイ※2』を開発しました。
このシステムは、次の発破パターン※3を検討するために、従来熟練トンネル技能者が行っていた良否判定を自動化するものです。この実現のためドローンが自律飛行(自動撮影)する「Blast Eye」及び深層学習(Deep Leaning)により熟練者に代わって判断する「Blast AI」という2つの技術を開発しました(図-1参照)。

  • ※1:爆薬のエネルギーによって切羽(トンネル掘削中の最前線)の岩塊が飛び散った後の形状
  • ※2:「ブラスト」はBlast(発破)、「アイ」は発破の見える化(目=Eye)とAIを意味している。
  • ※3:発破のための削孔数・削孔位置・削孔深度・削孔角度・爆薬量・雷管種別などの組み合わせ

図-1 Blast Eye/AI:ブラスト・アイ システムの概要

1.開発の背景

中硬質岩の山岳トンネルでは、約1〜2m毎の発破掘削により順次トンネルを施工していきますが、地質の不連続性などから、発破の適切性を都度判定し、次の発破パターンに反映していく必要があります。 適切性の判定は、①発破作業を行った後の切羽の形状(掘削した空間の大きさや凹凸など)と、②発破の飛石の形状を確認し、実施します(図-2参照)。 前者①は幾何学的な目標ラインに対する凹凸などから3Dレーザースキャナ等の使用により誰にでも定量的に判定できますが、後者②は適切な形状が曖昧なため、トンネル熟練工の判定に委ねてきました。 本開発は、不足・減少傾向にある熟練工のもつ経験(暗黙知)をAIに学習させ後世に残すと共に、これを活用して、誰でも効率的に、次回の発破パターンに反映する適切な判定結果を入手できるようにするものです。

図-2 発破作業後の切羽の形状と発破飛石の形状のイメージ図

2.Blast Eye/AI:ブラスト・アイを構成する2つの技術

2-1 発破後の3次元飛石形状を自動撮影し、3次元データ化する技術:Blast Eyeを現場で実証

軽量で安価なデジタルカメラの使用と、Visual SLAM※4技術によるドローンの自律飛行※5により、発破後の3次元切羽形状とその近傍の3次元飛石形状データを自動取得する方法を当社施工中のトンネル工事で実証しました。

① 困難なトンネル内自律飛行を可能にする工夫

一般的に、GPSが受信できない閉鎖空間ではSLAM技術によりドローンを自律飛行させることができますが、施工中のトンネル内ではGPSが受信できないことに加え、長い線状の狭隘な連続空間であること、単調で飛行時に参照する特
しかし、本現場実証では、変化に乏しく特徴点が捕捉しづらい路面ではなく、鋼製支保工やロックボルト等の特徴点を捕捉しやすいトンネル上部(天端部)を飛行させることで、これらの課題を解決しました。また、飛行のための特徴点の確実な捕捉のために、特殊な高輝度LEDライトを使用すると共に、ドローン機体上部の前後に2対のカメラ(ステレオカメラ)を採用しました。なお、ドローンには、(株)自律制御システム研究所製の機体を使用しています(写真-1,2,3,図-3参照)。

② 指定位置で自動撮影し、3次元画像を作成

切羽近傍の3次元画像はドローンの機体下部に設置したデジタルカメラを使用して取得しています。予め撮影位置をプログラミングしておくことで、少しずつ撮影位置を変えた約20枚の写真で画像処理し、3次元画像データを作成することができます(図-4参照)。

  • ※4:SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)は、カメラやレーザースキャナの情報から3次元地図を製作しながら位置姿勢を同時に推定する技術。本技術によりGPS信号を受信できない環境下でロボットやドローンの自律走行などが実現可能となる。今回の実験ではカメラを用いたVisual SLAMの技術を使用した。
  • ※5:リモートコントローラー等で操作することなく、プログラミングや上記のSLAM技術等によって、自動で飛行させる飛行方法

写真-1 使用したドローン(UAV)

写真-2 トンネル内の自律飛行

写真-3 切羽近傍の自動写真撮影

図-3 SLAMが捕捉した特徴点

図-4 自動撮影画像から作成した3D画像

2-2 発破後の3次元飛石形状から発破の良否を判定するAI技術:Blast AI

「発破後の3次元飛石形状」とその「良否判定結果」の対のデータを教師データ※6(学習用データ)とし、学習させたAIモデル『Blast AI』を開発しました。AIモデルの作成にはPointNet※7を使用しています。

① 模擬的なトンネルで学習用データを準備

施工中のトンネルの発破データではAI学習に必要な学習用データ数が十分に得られないため、実験室内に模擬的なトンネルを造り、「良好な発破」・「普通の発破」・「不良な発破」の3カテゴリーの飛石形状を模して、デジタルカメラによりそれぞれの3次元飛石形状データを取得し、学習用のデータを準備しました(図-5参照)。

② 実用可能なAIモデルを実証

種々の模擬発破飛石形状を、トンネル経験が豊富な熟練者に判定させ、学習用データ約150組を準備しました。学習用データとは別に、「良好な発破」・「普通の発破」・「不良な発破」のバリデーションデータ(正答率確認用データ)を各々10組ずつ準備し、検証した結果、正答率は約85%となり、この段階のAIモデルとして実用可能であることを確認しています(図-6、図-7参照)。なお、判定データとなる3次元飛石形状データ入力後、良否判定に要する時間は約10秒程度であるため、判定には時間を要しません。

  • ※6:AIに学習させるための、正しい判定結果をセットにしたデータ
  • ※7:点群を扱うディープラーニングに適したアルゴリズム

図-5 学習用データに使用した室内模擬発破形状(3次元データ)の一例

図-6 Blast AIの学習履歴のプロット

図-7 AIモデルの判定結果PC画像イメージ
※良否判定に要する時間は約10秒程度

3.今後の展開

① さまざまな自動計測に活用できるBlast Eyeの可能性を追求

Blast Eyeは、発破飛石形状の撮影に限らず、様々な目的に使用できる技術です。位置認識精度の向上等により、トンネル測量や計測工にも使用できる可能性があります。また近年、切羽画像や切羽形状により地山等級をAIにより判定させる試みが始まっていますが、無人化・効率化・安全性向上の観点から、切羽の2次元画像や3次元形状データを無人で取得するための有効なツールになり得ると考えています。当社では、これらを踏まえ、生産性と安全性向上等のために、さらなる可能性を追求していきたいと考えています。

② 3次元領域を扱うAI開発への取り組みの成果を幅広く活用

Blast AIは発破の3次元飛石形状を判定するAIモデルですが、2次元画像によるAIが一般的な中で、3次元の領域(形状の良否判定)に拡大したところに新規性があります。当社では今後、今回のAIの開発過程において得た多くのノウハウを、種々の施工分野や用途に幅広く活用していく計画です。

③ 全国の実績データによる深層学習で精度を向上し現場に展開

今回開発した「Blast Eye/AI:ブラスト・アイ」のAIモデルは、実験室内での模擬発破データを使用したものですが、全国の発破掘削のデータを集積し、深層学習を重ねていくことで、判定精度を高め実施工で使用することが可能です。当社では今後、発破掘削による山岳トンネル現場での展開を図っていく予定です。