Zoom UP 現場
金沢
海みらい図書館
建設工事

創意工夫で想いをつなぐ

思わず声を上げてしまう外観。中に入っても、そこに広がる独特の世界に再び驚く。金沢の歴史に残る記念碑的な図書館の工事が竣工を間近に控えている。

天井高さ12m 大空間の中で本を読む

真っ白な外観と壁面を覆いつくす丸い穴に圧倒される。かなり離れた場所から見ても、普通ではない建築物ができあがりつつあることが見てとれる。
現場はJR金沢駅から車で10分ほどのところ。北に2㎞ほど行けば日本海・金沢港に出る。ここで進められているのが金沢海みらい図書館建設工事。元々は工場の跡地で、土地利用の協議をしたところ、近隣住民の要望もあって図書館を設立することになった。
設計を担当するのは公共施設を中心に数々の受賞歴を誇るシーラカンスK&H。この金沢海みらい図書館も外観、内観両面で様々な趣向が凝らしてある。最大の特徴は天井の高さ。中に入ると高さ12mの大空間が広がっており、特別な開放感がある。「無数の丸い窓から日が差し込むひろびろとした空間で本を楽しむ。それが狙いです。他にも特徴がたくさんあり、その分、施工にとても苦労しています」と作業所長は笑う。

真っ白な外観と無数の丸い窓
内部に入ると、無数のガラス窓から日光があわく差し込む。優しい光を受けながら、落ち着いた雰囲気の中で読書を楽しめそうだ
作業所長

外周鉄骨が建物全体を支える

工事が始まったのは2009年10月。鉄骨建方は昨年6月に開始された。この建物に用いられる柱は1階部分で600㎜、2階から上は300㎜と非常に細い。実際にはその心配はないが、万一倒れることのないようワイヤーで支持しながら組んでいく。「柱が細いので離れたところからだと見えません。本体鉄骨が完成した当時は、屋根が宙に浮いているように見えたんですよ」と作業所長は振り返る。
こんな細い柱で大丈夫なのか、と思う方もいるかもしれない。普通は柱梁で建物を支えるが、この柱は屋根を保持するためだけのもの。屋根は柱の上に載っかっている状態だ。水平荷重を支えるのは外周鉄骨。外周鉄骨の構造ブレースが地震力に対応する。

本体鉄骨が完成した状態。柱が細いため、遠くから見ると屋根が宙に浮いているように見える
鉄骨建方完了時。外周鉄骨が建物全体を支える

特殊なデザインを実現するために

鉄骨建方と各階の床のコンクリート工事を終えると外壁の取り付けに入る。この外壁は縦4,000㎜×横2,040㎜で、全部で約520枚のパネルを使用する。1枚の外壁パネルには18枚のガラスブロックがはめられている。ガラスは、直接日が差し込むエリアは熱線吸収ガラス、階段の近くは網入りガラス、近隣住宅に近いところはかすみ入りなどいくつかの種類があり、それらの組み合わせは全11パターンにもなる。それに加えて大きさも3パターンある。はめるガラスが異なるため、外壁パネルはすべて仕様が違う。約520枚が厳密に管理されている。
この外壁パネルは1枚1tほどの重さがあり、クレーンでしか取り付けられない。外周全面に足場を組んでしまうと作業のじゃまになってしまう。しかし塗装などの作業のためには足場がどうしても必要だ。そこで採用したのが移動足場。幅は約10m、外壁の取り付けと同時に塗装などの作業を進められるだけでなく、作業を終えたら移動して出来を見る、というように逐一確認しながら進められるので効率もよい。この移動足場は内部にも5台設置し、施工効率の向上を図っている。

移動足場。一時期は外壁4面すべてに設置されていた
内部に設置された移動足場。設計上、重機を中に入れることができないため、足場の果たす役割は非常に大きい
ガラスブロックの種類は全11パターン。場所ごとに適したものがはめられている

唯一無二の建物 安全第一で竣工の日を

ただでさえ難しい工事。それをさらに困難にしているのがこの地方特有の気候である。1年を通して風が強く、風速25~26mの強風が吹くことも珍しくない。冬場は毎日雨、雪、みぞれ。晴れることはほとんどない。「この天気のせいで屋根の防水工事の段取りを組むのが非常に難しい。こればかりはどうしようもないのですが…」と作業所長は苦笑いする。「天気が悪いし、危険な作業が多い。慣れによる事故だけは防がなければなりません。とにかく安全第一です」と高い緊張感を保っている。もちろんメンバーへの注意も怠らない。安全を守りながら、ここで多くを学んでほしいと期待を込める。「基本はどこも同じです。作業手順を守る。図面通りか確認する。間違いがあっても放置せず速やかに直す。特殊な工事だからこそ、基本を忘れないでほしいですね」
まちがいなく地域のランドマークになる特別な建物。現場の士気は非常に高いと作業所長は話す。「皆が工事を楽しんでいますし、完成を心待ちにしています。私たちにとっても協力会社の作業員たちにとっても一生に一度の仕事。無事故無災害のまま、竣工まで歩んでいきます」

私たちが作っています

工事概要

工事名称 金沢海みらい図書館建設工事
工事場所 石川県金沢市寺中イ1-1
発注者 金沢市
設計 シーラカンスK&H(株)
施工者 戸田・兼六・高田JV
工事期間 2009年9月~2011年3月
工事概要 地上3階、地下1階
地上S造、地下RC造
敷地面積 11,763.43m2
建築面積 2,282.19m2
延床面積 5,609.27m2
最高高さ 18.09m
用途 図書館、集会場、キャノピー、駐輪場