AGRI-SCIENCE VALLEY JO-SO
農業の6次産業化を軸に
地域の可能性をつくる

アグリサイエンスバレー常総

2023年5月にまちびらきを迎えた「アグリサイエンスバレー常総」は、「農業6次産業化」による地域活性化を目指すまちづくり事業だ。茨城県の圏央道常総インターチェンジ周辺を中心に、多くの地権者が所有する農地を集約し、大区画化。同時に、生産・加工・流通・販売まで一気通貫した事業施設の整備を行った。事業の構想段階から地域に入り、市と地権者と3者で官民連携協定を締結、土地区画整理事業の業務代行者となるなど、市と共に事業推進を担っている。

開発をして終わりではなく、
まちを育てるまでが仕事。
それを戸田建設の
企業文化にしていきたい。
土木営業部門 松本拓也
戸田建設はこれまで、区画整理によって開発事業を進めるなかで、多くの農地の土地利用転換を図ってきました。その経験から、優良農地を都市化していくだけで本当にいいのか、という疑問が生まれ、「地域の農業にも寄与する開発を行いたい」と考えていました。そのような思いを抱いていた折、常総市から、新しくできるインターチェンジ周辺の基本構想を作成したいという話を伺い、「農業6次産業化を軸にしたまちづくり」に参画させていただいたのがはじまりです。

「農業6次産業化」は、非常に重要なキーワードでした。農作物を生産する1次産業だけを盛り上げても、農家の収益が劇的に上がることはないのです。付加価値が付くのは、加工と販売。つまり2次産業と3次産業です。その1次と2次、3次を掛け合わせられる環境を整えることが、結果的に、土地を提供してくださった地権者をはじめ、周辺農家や農業生産法人に寄与することになる。

会社として区画整理事業のあり方を見直しはじめたのは、1990年代まで遡ります。区画整理事業は、地権者と行政と建設会社の三者一体で進めます。建設会社は、開発が終わればその場から離れますが、地権者と行政は、そのまちにずっと関わり続けます。建設会社だけがつくって終わりでいいのか。それも私たちが長年抱いてきた疑問であり、課題のひとつでした。

「アグリサイエンスバレー常総」は、開発して終わりではありません。構想段階から地域に根ざし、開発後の運営も一緒に行っていくのだ、という決意のもと、スタートした事業です。全国でも類を見ない官民連携協定を結び、施設内の店舗運営も含めたまちづくり、「まち育て」までを仕事としています。理想を示すだけに終わらず、建設するだけに終わらず、地域の方々も含めたみんなが「やってよかった」と言えるような結果を共につくり、育てる。それをこれからの戸田建設の企業文化にしていきたいと考えています。
アグリサイエンスバレー構想前の敷地俯瞰写真
誰のための仕事なのか。
誰に喜んでもらえるのかを考え、
具現化する実行力。
農業を主体にしたまちづくりをするのだから、自らも本気で農業やってみたらどうなるのだろう……。「アグリサイエンスバレー常総」の近傍に、戸田建設グループが実証施設「TODA農房」を創設。実際にイチゴやメロンを育てながら、農業の課題把握をはじめ、より多くの人が参画しやすい栽培設計や体制づくりに取り組んでいます。

育てた農作物の出荷から加工商品の開発、販売までを一貫して行っており、「TODA農房」はいわば、この場所の「農業6次産業化」のフラッグシップ。そこまで踏み込んで参画することについて、当初本当に? と私も驚きました。

前例はありません。実現に至った要因は、ひとえに、弊社の経営陣の発想が非常にフレキシブルだったこと。そしてこの事業の根底に、社会貢献や地域振興に対する強い思いがあったからだと思います。企業の利益だけではなく、この事業が誰のためになるのかを考え、きちんと実行していけば、きちんと実を結ぶのだということを、私自身、この「アグリサイエンスバレー常総」で学びました。

区画整理からはじまる開発のような、関係者が多い事業は特に、お互いに利他の心を抱いて進めることが大切です。地権者のなかには、代々受け継いできた土地を手放すことに抵抗がある方も少なくありません。今回事業を進めるにあたっては、ご提供いただいた土地が優良農地だったことに何度も立ち返り、周辺農家や地元の方々の「利」は何かを考え続けることとなりました。

戸田建設だからできた、と言われるのはとてもうれしいことですが、戸田建設だけでは、絶対にできなかった。関係者の方々への感謝はひとしおで、今後も、この常総エリアがより良い方向に進むための様々な試みに、力を注いでいきたいと思っています。
自社設計ハウス「SORA リウム」でIoT の活用により高品質ないちごの生産を目指しています

同じゴールを見据えながら
それぞれの活躍の場と
経済活動につなげる。
地域価値創生部 山道あい
私がこのプロジェクトに参加しはじめたのは、2019年。ちょうど造成工事が着工したばかりで、地域の方々に、どのような集客施設を望むかのアンケート調査を行うなど、「ソフト面でのまちづくり」が具体的に動きはじめた頃でした。「アグリサイエンスバレー常総」のコンセプトである「農業6次産業化」の、主に2次と3次、加工施設と販売店舗の企画などに携わり、現在も常総市と共に事業推進を行っています。

「農業を軸にしたまちづくり」を実現していくうえで大切だったのは、この事業を私たち戸田建設の思いだけで進めるのではなく、行政はもちろん、地元企業や進出企業、地権者、生産者の方々みなさんの「共通の思い」として、常に同じゴールを見据え続けることでした。

心に留めていたのは、その多種多様な事業関係者がそれぞれ、「活躍の場」を得られるまちであること。その活躍の場が、きちんと経済活動につながっていくことです。経済活動につながって初めて、「アグリサイエンスバレー常総」の継続があるのだということを、常に意識していました。

また、私が所属している地域価値創生部の上長は、日頃から「三方よし」という言葉を口にするのですが、利益だけではなく、社会に貢献できてこそ、その事業は成功と言える。どういう取り組みをしたら、地域の課題の解決になるのか、どういう結果が、地域社会や経済をより良くしていくのか。視野を広くもち、関係者と根気強く対話を積み重ねることが、まちづくりの技術という意味でも要になったと思います。
生産から加工、販売までの農業の6次産業化(1次産業×2 次産業×3 次産業)による地域創生を目標としている
にぎわいを生む場所をつくることで、
地域に関わる
「関係人口」を増やしたい。
「アグリサイエンスバレー常総」に農作物の加工施設と販売店舗という「新しい産業」が生まれることで、地域に「新しい雇用」が生まれます。雇用の創出は、常総市が抱える課題のひとつである「周辺都市への人口流出」を止める一助になると考えています。事業地は市の中央部。そこに「にぎわい」を生む場所をつくることで、一朝一夕に定住人口は増やせなくても、交流人口や関係人口、広い意味でこの地域に関わる人々を増やせるのではないか。その点も関係者と繰り返し対話し、目標として共有してきたことのひとつです。

印象的だったのは、まちびらきを迎えて数カ月後に現地を訪れたときのこと。「アグリサイエンスバレー常総」が地域の日常の風景になっているな、と感じられたことです。

地域農業の核となる産業団地には地元の働き手が集まり、農産物の直売所や地場の食材を使ったレストランには、市の内外から多くの人が訪れていました。敷地内の施設を行き来しながら家族や友人と楽しく過ごす人々の姿を目の当たりにしたとき、新しいまちをつくったのだなぁ、という実感を改めて抱くことができました。

それにしても、今回ははじめての取り組みばかりで、本当にたくさんのハードルがありました。そのなかで、社内の様々な部署の人たちの協力が得られたことは、とても心強かったですね。役割や立場が違う人たちが少しずつチームになり、それぞれがハブになって、一緒にまちづくりを進められたことが、モチベーションの支えとしても大きかったと思います。

45へクタールもの広さの、このまちとの関わりは続きます。事業地内の「農地エリア」で生産される農作物を、魅力ある商品として、より多くの人に届けられるよう奔走していますし、「都市エリア」では、私たち戸田建設が運営主体となる温浴施設の計画も進んでいます。農業と地域振興の新しい形、新しい可能性に、今後も注目していただければ幸いです。
年代ごとの絵本が揃う、児童書の本棚ピラミッド

想像以上の反響と波及効果。
基幹産業である農業を活かし
地域創生のモデルケースにしたい。
常総市役所 産業振興部長 川沼一巳
2023年の4月末に「アグリサイエンスバレー常総」内の「道の駅常総」が開業し、直後のゴールデンウィーク期間中、9日間で、約7万人の方々に来ていただくことができました。当初、年間の来場客数の目標を100万人に設定していたのですが、開業半年でその目標を達成。道の駅の1か月後にオープンした「TSUTAYA BOOKSTORE 常総インターチェンジ」との相乗効果により、想像以上の反響があることに驚くと同時に、これから建設がはじまる温浴施設などにも、大きな期待を寄せているところです。

何よりも、高速道路のインターチェンジに近接した、45へクタールもの大規模な敷地で「農業を活性化させるためのまちづくり」が実現したことを、本当にうれしく思っています。

常総市の基幹産業は、農業です。特に米づくりが盛んではあるのですが、稲作農家のなかには、米価の下落による収入の減少や後継者問題など、先行きに不安を抱えている方も多くいらっしゃいます。離農による耕作放棄地も増えています。そのような状況のなか、農業を活かす開発、都市的なまちづくりと農業の両立は、私たちの命題であり、戸田建設と共に進めてきた「農業6次産業化を軸にしたまちづくり」はまさに、常総市の願いそのものでした。

開発地はもともと水田で、畑地へ転換し大区画化した「農地エリア」と、市街化区域に編入し、加工・流通系の企業や集客施設などを集めた「都市エリア」から成ります。

たとえば、「農地エリア」のミニトマト農場では、温室栽培で年間1,000トンの生産・出荷を見込んでいます。稲作の一部を施設園芸に転換し、ITも活用しながら利益をきちんと出していく、という姿をお見せできれば、事業地の成果としてだけではなく、周辺農家の展望や今後の展開の参考になるはずです。

「都市エリア」の道の駅に農作物の直売所ができたことひとつとっても、大きな波及効果を生んでいます。開業から半年間の農産物の売り上げは格段に上がっています。農家のモチベーションアップはもちろん、個人の農家が自分たちで「出口戦略」を立てられるようになったことが、成果としてとても大きいと感じています。つくったものを売るのではなく、「売れるものをつくる」という発想の転換も図られはじめています。
TODA農房が運営をしている地域の旬の食材を使ったジェラートショップ
TODA農房のいちごを使用したフレーバーも
常総市の復興のシンボルとして。
まちのにぎわいを
市内にも広げる仕組みづくりへ。
行政から見た数字として、目に見える効果で大きいのは、税収の増加と雇用の創出です。全施設が完成すると、税収は固定資産税だけで約3億円。開発前の600倍近くになります。雇用は、全施設で2,000 人近く創出できる見込みです。東京都内で働いていた常総市民が「アグリサイエンスバレー常総」内の施設に就職するケースもあると聞き、地方自治体としては、願ってもないUターン転職です。

今後の課題は、この場所のにぎわいを、市内広域の活性化につなげていくこと。デジタル技術を活用して、道の駅にあるデジタルサイネージと個人のパソコンやスマートフォンを連携させることにより、市内の観光資源や既存の商店街にも足をのばしてもらえる仕組みづくりもはじめています。

もうひとつ、市の思いとして大きいのは、2015年9月に起きた関東・東北豪雨からの復興です。常総市は、鬼怒川の決壊により市の3分の1が被災、事業地一帯も浸水し、一時は計画の中断を余儀なくされました。戸田建設の方々も復旧のボランティア活動に通ってくださり、思い新たに再スタートを切ることができたのは、本当にありがたかった。このまちは「復興のシンボル」。そういう意味でも、無事まちびらきを迎えることができ、感慨もひとしおです。

都市的なまちづくりと農業の両立は、これから日本各地の地方自治体の、共通の目標となるでしょう。実際に、同じ悩みを抱えている地方自治体から、視察の申し込みを多数いただいています。このまちが、農業を軸にした地域振興の、持続可能な地域経済のモデルケースとなれば、これほどうれしいことはありません。
ライフスタイル提案型の複合型店舗として設計されたTSUTAYA BOOKSTORE 常総インターチェンジ
「親と子」「生活」「食」をテーマにしたライフスタイル提案を行う複合型書店の他、全天候型あそび場もある