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Project Story 01

長崎大学 高度感染症研究センター建設プロジェクト

日本初 世界最高レベルの 安全性能を持つ ウイルス研究施設をつくる。

Prologue

エイズやエボラ出血熱、SARS、そして新型コロナウイルスなど、近年、世界各地で未知なる感染症が出現し、地球規模で感染が拡大するリスクが高まっている。日本においても感染症研究の必要性が増していたが、国内にはこれまで世界最高レベルの安全性能「バイオセーフティレベル4(BSL-4)」を満たす研究・実験施設が存在せず、革新的な治療技術の開発や研究者の育成が大きな課題となっていた。そこで政府は、国策として日本の病原体研究の最先端を担うBSL-4施設を長崎大学に設置することを決定。戸田建設は、国内初の『病原体の研究・実験を行うBSL-4施設』の施工を受注し、本社と3支店から精鋭が集結した一大プロジェクトがスタートした。

※国内では過去にBSL-4施設は2例あるものの、それぞれ「感染症の診断・治療施設」・「遺伝子組み換え実験室」として使用されており、『病原体の研究・実験を行うBSL-4施設』としては国内初の施設となります。

Key Word

BSL(バイオセーフティレベル)

病原体を安全に取り扱うための基準であり、細菌・ウイルスなどを取り扱う実験施設の分類。レベル1~4に分類されており、BSL-4が最も厳しく、ヒトまたは動物に感染症を引き起こし、感染能力が高く、かつ有効な治療、予防法のない病原体にも対応できる安全性を備える必要がある。

Member

D.O.
営業

九州支店 建築営業第1部1課長 兼 長崎建築営業所長
2005年入社/工学部・建築学科卒

営業担当として、入札参加資格申請および受注までの社内調整や連絡業務を担当。社内のプロジェクトチームをまとめ、プロジェクトを受注に導く。
Y.S.
建築施工

札幌支店 建築工事部 技術課長 兼 建築環境・品質管理部 環境・品質管理課長
2002年入社/工学部デザイン工学科 建築系卒

計画担当副所長として、施工計画の立案や、施工実験、本施工の管理、建物の性能確保までを一貫して担当。社内・施主との会議体の運営なども行なった。
N.M.
設備施工

九州支店 設備部 設備2課 課長代理
2011年 中途入社/工学部 電気工学科卒

建物の空調設備、給排水衛生設備、電気設備、自動制御設備などの施工管理を担当。要求性能を満たしていることを証明する性能検証試験も行った。
K.S.
建築エンジニアリング

本社 エンジニアリングソリューション統轄部 生産施設部 主管
2010年入社/工学研究科 応用化学専攻卒

現場の技術支援を行うエンジニアリング部門のメンバーとして、ユーザー要求仕様まとめや建物の性能検証を担当。

Story 1

未知なる挑戦への第一歩

入札への参加条件を突破するために

日本の病原体研究の最先端を担う実験施設。この「未知なる建物」の施工を受注すべく奔走したのが、現場での施工管理職の経験を持つ長崎営業所のOだった。国内では前例のない難関プロジェクトゆえ、施工会社を決める入札にも厳しい参加条件が課せられていた。入札参加への大きな障壁となったのは、過去の施工実績。条件をクリアする実績がなければ、入札する権利すら与えられない。Oは、入札に向けて本社・支店を横断するプロジェクトチームをまとめるとともに、全国の営業部署に連絡を取り、施工実績の案件データを総ざらいした。しかし、該当する実績はゼロ。Oは、類似する実績を見つけては何度も長崎大学に通ったが、やはり実績として認められるものはなかった。入札参加申請期限が目前に迫る中、Oは締め切り前夜まで図面を探り続けた。そして、20年ほど前に戸田建設が施工した某大学の研究施設の図面に目が止まる。「ここは、案件データには記されていないが、ひょっとしたら地下の構造が入札条件に当てはまるかもしれない」。営業職に転向する前、施工管理職として数々の図面に向き合ってきたOの直感が動いた。翌朝、急いで某大学に問い合わせると、確かに地下の構造と使用用途が入札条件に合致していた。まさに間一髪。社内では、積算部門がきっちりと見積り作業を終えて、入札の準備は整った。そして見事に落札。実に4ヶ月を費やした入札レースは、戸田建設に軍配が上がった。

すべてが手探りの状態からスタート

無事に工事を受注したものの、着工前に乗り越えなければならない壁がいくつもあった。地震、停電、テロなどの様々なリスクを想定した上で、未知なる病原体を「絶対に」外部に漏らさない建物を作るにはどうすればいいのか。そしてウイルス・細菌などの病原体が外部に漏れていないことを、どう証明するのか。かつてなく高い要求水準に、すべてが手探りの状態。そこで、モックアップと呼ばれる実物よりも小型の模擬実験室を作成し、実際の施工時期に季節を合わせてちょうど1年前から施工実験を行うことで、本施工の仕様や施工方法を模索していった。

本社エンジニアリング部門のKSは、毎回難解な専門用語が飛び交う会議に苦戦しながらも少しずつ理解を深め、大学側の要求仕様をまとめていく。と同時に施工担当のYSや設備担当のMらとともにモックアップでの実験を繰り返しながら、過去の類似案件や海外の事例も参考にして性能検証の実験方法(プロトコル)を開発。プロジェクトが一歩ずつ前に進み出した。

Story 2

世界最高水準の「壁」を求めて

病原体を絶対に外部に漏らさない
実験室とは

病原体を確実に封じ込めるためには、大きく二つの技術的アプローチが必要だった。一つは、建物の「気密性」の確保。BSL-4実験室の気密性能として、防水よりも遥かに難易度の高い封じ込め性能が求められた。コンクリートの躯体に一分の隙もない密閉空間を作らなければならない。そしてもう一つが、「室圧」の制御。空気は気圧の高いところから低いところに向かって流れるため、実験室の中の気圧を外側よりも低い「陰圧」の状態に維持できれば、空気が外に漏れることはない。実験室のあるフロアにはいくつかの部屋があり、病原体を扱う実験室はフロアの一番奥にある。エレベーターを降りてから実験室に向かって各部屋の室圧にグラデーションを付け、実験室をいかに陰圧状態に制御し続けるか。どこにも隙のない「コンクリートの壁」と、目には見えない「気圧の壁」。プロジェクトチームは二つの壁を求めて、モックアップでの実験を繰り返した。

モックアップで検証を繰り返す

モックアップの検証では、実際に鉄筋、型枠を組んでコンクリートを流し込み、2.5メートル四方の部屋を構築。コンクリートには、戸田の独自技術である「極低収縮コンクリート」と「高機能性流動化剤」を採用し、長崎の施工環境に合わせて現地でさらなる改良を加えた。モックアップとはいえ、ダクトや配管などの貫通部もあり、そこから空気が漏れる可能性もある。気密性試験を担当したKSは、コンクリートの型枠を解体し、特殊な塗料を塗り重ねるたびに、ヒビ割れや気泡がないか、配管や建具の隙間から空気の漏れがないかを繰り返し検証していった。

室圧の制御に関しては別のモックアップを作り、設備担当のMを中心に検証が進められた。チームを悩ませたのが、気圧変化の原因となる「外乱」の存在。例えば、病原体の実験では宇宙服型の陽圧気密防護スーツを着用し、実験室からの退出時にはスーツを着用したまま薬液によるシャワーを浴びる必要がある。その間、シャワー室内も陰圧に保つ必要があるが、その薬液シャワー自体が室圧を乱す原因になるのだ。「わずかな漏れも絶対に許されない状況下では、100点満点以外は0点と同じ」。Mは、絶対に妥協しないことを肝に銘じ、モックアップの中でトライアンドエラーを繰り返した。

Story 3

最後までやり抜く戸田の力

最大の難局で見せた
「人の戸田」の底力

モックアップの検証で確実な施工方法が確立できれば、次はそれを実際の施工に反映させていく。その施工において重要な局面となったのは、BSL-4実験室のコンクリートの打設だった。言うまでもなく、一度コンクリートを流し込んでしまえばもう後戻りはできない。何ヶ月もかけて進めてきた全ての準備が、この1日にかかっていた。工事の万全を期すために、YSは通常の倍以上となる100名以上の作業員、スタッフを長崎県の内外から動員して打設に臨む計画を立てた。ところがそのタイミングで国内に新型コロナウイルスの感染が拡大。長崎県内や長崎大学の敷地内への立ち入りに厳しい制限が課せられた。このピンチを救ったのは、長崎県内で別の工事を行なっていた戸田建設の仲間たちだった。どの現場も人手に余裕のない中で、別現場の所長までもが自分たちの現場を止めて応援に駆けつけた。こうして無事にコンクリートの打設に成功。これぞ「人の戸田」。力を合わせて、またひとつ難所を乗り越えた。

工事が終わっても性能検証は
終わらない

事中も、ひとつの工程が終わるごとに気密性などの試験を行い、何か問題があれば工事を止めてでも原因の究明にあたる。モックアップで検証していたとはいえ、やはり実物の実験室は何倍も大きく、コンクリート躯体の形状や設備も異なる部分が多い。絶対に妥協しないという信念を、Mはここでも貫いた。

このプロジェクト全体の工期は2年7ヶ月だったが、建物自体は2年2ヶ月で完成、残りの5ヶ月は「バリデーション」と呼ばれる建物の性能検証に充てられ、「排水処理設備バリデーション」と「気密性」や「室圧制御性」などの検証を繰り返した。工事を終えた後もMは現場に残り、BSL-4施設の気密性能としては世界で最も厳格なカナダの基準を参考にしながら、KSや空調設備会社など協力会社のプロフェッショナルとともにバリデーションを進めていった。

Story 4

日本初の
難関プロジェクトを完遂

ついに迎えた竣工の瞬間

こうして、ついに長崎大学高度感染症研究センターが竣工。長崎大学への引渡しが行われ、これからは、この研究・実験施設が日本の感染症研究の最前線となる。

「引渡しの時に『難しい施設をきちっと作っていただき、ありがとうございます』と言われた時は本当に嬉しかったですね」。Mはそう言った後、「それでも」と言葉を続けた。「この施設は今後長きにわたり将来の研究者によって、治療法のない病気の治療法を研究するために利用され続けていきます。その過程で建物や設備は劣化していきますし、前例のない建物であるがゆえに私たちの想定外のことも発生するかもしれません。しかしそれでも『ウイルスを外に漏らしてはいけない』という点は変わりません。建物を引渡した後も戸田建設として、また、私個人としても、お客様とともに建物が健全な状態で運営されていくように責任を持ち、これからも向き合い続けていきたいと思います」。

日本の感染症研究を支えるために、戸田建設の挑戦は続いていく。