新着情報 吹付厚さのリアルタイム計測管理技術
『吹付ナビゲーションシステム』を確立
ミリ波レーダ、モーションキャプチャカメラを搭載した新型吹付機の開発

2023/06/26

戸田建設株式会社<社長 大谷清介>、エフティーエス株式会社<社長 木村浩之>と清水建設株式会社<社長 井上和幸>、西松建設株式会社<社長 髙瀨伸利>、前田建設工業株式会社<社長 前田操治>は共同で、山岳トンネルの「吹付ナビゲーションシステム」を開発しました。エフティーエス株式会社では、このシステムを搭載したエレクター付吹付機(商品名:ヘラクレス-Navigator)の普及を図ります。

国土交通省は、建設工事へのICTの全面活用「i-Construction」による生産性向上を推進しています。また、厚生労働省では「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」や「ずい道等建設工事における粉塵対策に関するガイドライン」の指針を策定しており、山岳トンネルにおけるコンクリート吹付作業での本質的な安全対策として、遠隔化施工の可能な技術導入の検討を求められています。

そこで、戸田建設株式会社ら共同開発チームは、近年の社会的ニーズを踏まえて2018年より継続して山岳トンネル工事におけるコンクリート吹付作業を遠隔自動化させるための技術を探索し、試作・検証を進めてきました。従来の吹付作業効率を損なわず、定量的にリアルタイムに遠隔で吹付出来形状況が確認できる技術を追求した結果、ヘラクレス-Navigatorが完成しました(図-1)。

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図-1「吹付ナビゲーションシステム」を搭載した新型吹付機(ヘラクレス-Navigator)

本システムは、①生コンクリートを吹付けている吹付面までの距離を正確にリアルタイムで測定できるミリ波レーダ技術、②ミリ波レーダの座標位置を正確に測量するモーションキャプチャ技術、③生コンクリートを噴出吹付するノズルを稼働制御する技術、および④山岳トンネル施工坑内での機械測位システム技術の組み合わせにより構成されています。これらにより、構築されるトンネルの基線の座標系に合わせた、吹付コンクリート出来形のタブレット等へのリアルタイム可視化が可能となり、施工操作と出来形のリアルタイム・デジタル管理が可能となりました。(図-2)

共同開発チームは、各社のフィールドで分担し、要素技術の開発、検証を進めました。

  1. A)ミリ波レーダ技術の導入検証と確立(2018年:前田建設工業(株)により実現場フィールド提供協力)
  2. B)吹付ロボットの高剛性・電子制御化開発(2019年~2020年:エフティ―エス(株)により設計開発)
  3. C)吹付ノズルの座標位置技術の確立(2019年~2021年:戸田建設㈱技術研究所、西松建設(株)技術研究所他により開発)
  4. D)トンネル機械測位システムとの座標系統合技術の開発(2020年:前田建設工業(株)篠ノ井機材センター)
  5. E)プロトタイプ(0号機)統合による全体検証(2021年:清水建設(株)により実現場フィールド提供協力)

以上の検証を経て吹付ナビゲーションシステムが完成し、実現場への導入稼働を開始しました。
ミリ波レーダ技術は、吹付中の測定エリアをカバーするように吹付ノズルの周囲に取り付けられたレーダ群からミリ波を対象に照射し、その反射波を捕捉して吹付面までの距離を測定するものです。レーダ波は、吹付中の生コンクリートの霧や塵を透過し、測定波が錯乱しにくいことが特長です。これにより、同条件では錯乱・減衰しやすいレーザー光による測定とは異なり、作業中での厚さ変化を高精度なデジタル値で捉えることができるようになりました。

モーションキャプチャカメラは、吹付中のノズル位置計測に応用することが可能となりました。これらの計測システムは、IP55クラスの防水防塵仕様を施しています。新開発した吹付機は、PLC制御を採用したことで、スムーズな制御稼働を可能にしました。

2021年8月、西松建設JV施工の九州地方整備局発注「福岡201号筑穂トンネル新設工事」で1号機が(図-2)、戸田建設で2号機が導入採用され、実施工にて本吹付ナビゲーションシステムの本格稼働を開始しました。

2023年3月、共同開発チームは、本システムのさらなるブラッシュアップを図ると共に、実現場検証で得られた結果を基に専用の実験用吹付システムを用意し、前田建設工業(株)ICI総合センター模擬トンネル(図-3)内にて現場条件を再現し検証を実施しました。今後は、本システムの販売に向けて準備を進めていきます。

IP55クラス
JIS C 0920で定められた防塵・防水規格で、規格内容は、防塵形で、粉塵が内部に浸入することを防止し、若干の粉塵の浸入があっても正常な運転を阻害せず、尚且つ、いかなる方向からの水の直接噴流によっても有害な影響を受けないものです。

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図-2 リアルタイム吹付出来形表示
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図-3 模擬トンネル内での検証