山岳トンネル技術 自由面発破工法

概要

山岳トンネルの掘削では、効率性・経済性に優れる発破工法が広く採用されていますが、余掘り増大による採算性低下や、振動・騒音により周辺環境に与える負荷が大きな課題となっています。このため、余掘り低減、振動および騒音の低減を実現し、トンネル工事の収益力向上と周辺環境の負荷低減を目的とした制御発破工法として、既に無発破工法として開発済みである割岩技術(EG-Slitter)と発破工法を組み合わせた「自由面発破工法」を開発しました。
本工法は、ドリルジャンボのガイドセルにEG-Slitterを装着し、芯抜き部に自由面(連続孔)を設けて発破効率を向上し、総火薬量を削減して振動・騒音を低減します。また、最外周にガイドホール(空孔)を設けることで平滑な破断面を形成して余掘り低減を図ります。
なお、本工法は西松建設(株)との共同開発による成果となります。

ドリルジャンボに搭載したEG-Slitter
芯抜き部の連続孔活用による
「振動低減の発破パターン」
最外周のガイドホール活用による
「余掘り低減の発破パターン」
芯抜き部連続孔の削孔完了
ガイドホール(空孔)の削孔状況

メリット

  • 汎用のドリルジャンボガイドセルに、自由面形成のためのEG-Slitterを装着する簡便な改良を行い、振動・騒音低減の発破パターン、余掘り低減の発破パターンを穿孔・発破できます。
  • 現行発破パターンに比較して、発破振動を約50%低減、余掘り率を約10%低減します。

特徴

支保パターンCI、花崗閃緑岩、地山弾性波速度4.5km/s、亀裂係数0.13[=1-(Vp/vp)2]、準岩盤強度67MN/m2の地山条件で試験発破を実施した成果を以下に記載します。

①騒音・低周波音の抑制効果

現行発破パターンと振動低減パターンの比較による騒音・低周波音レベルの抑制効果は、騒音レベル低減量2dB、低周波音レベル低減量4dBであり、低減効果は小さい結果となっています。

②振動抑制効果

現行発破パターンと振動低減パターンの比較による振動速度・振動レベルの抑制効果は、振動速度0.16~0.47kine(低減率47~57%)、振動レベル20dB(低減率33%)であり、大きな振動低減効果が得られました。

騒音・低周波音レベルの抑制効果

騒音レベル(dB)低周波音レベル(dB)
①現行発破パターン 120 151
②振動低減パターン 118 147
③低減量(①-②) 2 4

振動速度・振動レベルの抑制効果

各地点の振動速度(kine)振動レベル(dB)150m
切羽〜50m切羽〜100m切羽〜150m切羽70〜90m
①現行発破パターン 0.99 0.69 0.28 0.49 60
②振動低減パターン 0.52 0.31 0.12 0.25 40
③低減量(①-②) 0.47 0.38 0.16 0.24 20
④低減率(%) 47 55 57 49 33

注)低減率(%)=③/①×100%

③余掘り抑制効果

発破後の掘削面は、比較的に亀裂の少ない範囲において、「のみ跡」や装薬孔と空孔による平滑な破断面が形成されていることを確認しました。ガイドホールの有無による平均余掘り厚を比較すると、目標220mm(積算上の支払線、余掘り率157%)に対して、ガイドホールが無い場合でも平均余掘り厚195mm(余掘り率147%)と良好な施工が実施されていますが、ガイドホールがある場合は、さらに余掘りが低減され、平均余掘り厚147mm(余掘り率138%)を達成しました。

のみ跡と破断面の状況
各試験発破における平均余掘り厚

④サイクルタイムへの影響

穿孔作業は、3ブーム油圧ジャンボの中ブームに搭載したEG-Slitterにより連続孔またはガイドホールを削孔し、他の2ブームで装薬孔の穿孔を実施しました。穿孔~発破作業の平均サイクルタイムは、現行発破150分に対し、振動低減パターン160分、余掘低減パターン150分であり、自由面発破工法は現行発破とほぼ同程度のサイクルタイムとなりました。これは、比較的小さな掘削断面(55m3)において、元々中ブームの稼働が制約されるため、通常穿孔の3倍の穿孔速度(0.5m/分)となるEG-Slitterによる穿孔の影響が少なかったと考えられます。

サイクルタイムの比較

EG-Slitter穿孔全穿孔装薬・発破穿孔ー発破備考
現行発破パターン - 90 60 150 3ブームφ45mm
振動低減パターン 80 100 60 160 1ブームφ102mm、
2ブームφ45mm
余掘低減パターン 60 90 60 150 1ブームφ102mm、
2ブームφ45mm
関連する実績
  • 長野県滝沢トンネル工事〔平成18年度地方道路交付金工事(松川インター大鹿線中川村~大鹿村滝沢)〕
論文