山岳トンネル技術 縮径TBM

概要

従来の山岳トンネル掘削工法と比較し、高速施工が可能なトンネル掘削機(TBM)の欠点は、掘削地山で断層帯等に遭遇した際の地山崩壊や、硬岩切削時による岩ズリ付着等により、マシン胴体が拘束され掘削不能となるリスクが挙げられます。拘束状態を解除するためには、水圧や土圧を有する環境下で地山が崩壊しない処置をした後、人力により拘束地山の切り広げ作業が必要となりますが、この作業は、作業員が掘削機の外側に出て拘束されている掘削機を覆うよう全長にわたり支保工等を建て、拘束状態の解除作業をする必要があり、危険かつ非効率的であると共に、長期間にわたる作業が必要となります。(写真-1参照)これらを勘案し、トンネル掘削機(TBM)に機械的に縮径・復元する機能を付加することで地山拘束状態から早期に脱出することが可能となる掘削機械を開発しました。

写真-1 TBMマシン周囲人力拡幅掘削状況

メリット

従来の掘削機拘束解除作業は、上記手法のように危険を伴い長期間にわたる作業となるため工期やコストを圧迫することになります。これらの事柄を解決するために掘削機外径を縮小し、地山拘束から脱出し、復元させることで下記のようなメリットがあります。

  • 掘削機拘束状態になった場合、人力作業を伴わずに胴体縮径をすることで容易に拘束状態を解除することが可能
  • 縮径(復元)する際の機構は油圧系統を制御する電気信号にて、操作盤から操作することが可能
  • 外鋼殻に設けた土圧計にて常に胴体に作用する土圧を監視することで、拘束の初期段階からの対応が可能で、危険範囲を監視掘削しながら回避することが可能
  • 油圧機構により動作させることで縮軽量(復元量)を何回も自在に対応することが可能
図-1縮径・復元 TBM掘削概要

トンネル掘削リスクが多いとされてきたTBMで新たな縮径(復元)構造技術を有することで従来の拘束解除方法と比較して、安全性、工期ともに飛躍的に向上します。

特徴

~外径を縮小・復元し地山拘束からの脱出を容易に~

掘削機の主な特徴(図-2 参照)

  • 掘削機の前胴部、中胴部、後胴部の周囲に固定下部を基点とした縮径(復元)可能な構造の分割された外鋼殻を装備する
  • 分割されたそれぞれの外鋼殻部に縮径(復元)用ジャッキを装備し、縮径量を確保する
  • 前胴部グリッパとして下部グリッパおよび縮径(復元)用ジャッキを2段ジャッキとし、2段目にグリッパ機能を持たせた
  • 外鋼殻と内鋼殻の隙間部への土砂流入防止は継ぎ目をオーバーラップ構造とし、内鋼殻との空隙は2段構造のワイヤブラシ型シールとし、間に自動グリス給脂する構造とした
  • それぞれの外鋼殻部に複数の土圧計を装備し、地山締付け状況を検知する構造とした
図-2縮径・復元 TBM掘削概要

実物大試験機

縮径(復元)TBMの実用化を図るため、実物大部分縮径(復元)TBM試験装置の製作を行いました。試験装置の技術的細目として以下を決定し製作し、実証しました。

◇機械の構成(写真-2参照)

φ3.5m縮径(復元)TBM用試験装置本体(前胴外胴部2枚分)、油圧機器、電気設備により構成

◇構成項目(写真-2~写真-5参照)

  1. 1縮径・復元ジャッキ、外鋼殻、グリッパ等の作動(設計対抗外力500kPa)
    • 前胴部の内鋼殻と2枚に分割された外鋼殻に2段ジャッキと中、後胴部に使用する縮径(復元)ジャッキ2台で構成
    • 2段ジャッキの1段目のジャッキは縮径量50mm(同復元量)で作動、2段目はグリッパとしてストローク90mmの作動
  2. 2分割された外鋼殻接合部の土砂防止機能として隙間なく作動させるため押し側を先行させ追従させる同調回路の採用
    • 接合部にはカマボコ型鋼を固定し、スムーズに作動させる構造(写真-3参照)
  3. 3内鋼殻と外鋼殻の間の土砂侵入防止としてバネ板ワイヤブラシシールを設置し縮径時、復元時に追従可能な構造とする
  4. 4外胴部はスラスト力を受けるため縮径・復元時に上下作動するスラスト受けを装備
    (実機にはスラスト受け端部に交換可能型土圧計を配置予定)
  5. 5運転操作はペンダントスイッチにて行う
写真-2縮径(復元)TBM試験装置全体
写真-3外鋼板接合部詳細
写真-4 作動試験状況(定常時)
写真-5 作動試験状況(縮径時)

この実験機を用いて、耐荷試験、接合部の土砂噛み込み防止状況、バネ板ワイヤブラシシール動作、2段ジャッキ等各部の作動確認を行い、正常動作を確認しました。
今後は、超長距離施工や途中で径が変化するような用途に対応できるような掘進機にも取り組んでいきます。

  • 技術協力:川崎重工業株式会社
論文