新着情報 マスカット(エイチ)工法を放射線施設の解体工事へ適用拡大 騒音、振動、粉塵を低減した解体を実現

2023/05/11

戸田建設(株)(本社:東京都中央区、社長:大谷 清介)は、日酸TANAKA(株)(所在地:埼玉県入間郡、社長:佃 淳一)、岡谷酸素(株)(所在地:長野県岡谷市、社長:野口 博一)とともに、これまでコンクリート構造物のガス切断工法である「マスカット(エイチ)工法*1を解体工事へ適用し、実績を積み重ねてきましたが、今回、放射線を取り扱う施設の解体工事へ初めて適用しました。
病院に併設されるリニアック室*2は放射線を取り扱う施設であり、その放射線を遮蔽する極厚の複層鋼板(遮蔽鋼板)やコンクリートで堅牢な躯体が構築されているため、解体工事は困難で手間がかかっていました。また、一般的に建設現場で使用する手持ちのガス切断設備では極厚の複層鋼板を一度に切断できないことや、従来工法のブレーカーを用いた解体では、騒音、振動、粉塵が発生すること、プロパンガスなどの切断では二酸化炭素が放出される課題がありました。そこで水素と酸素で構造物を切断するマスカットH工法(本工法)をリニアック室解体に適用することで、極厚の複層鋼板を一度に切断し、騒音、振動、粉塵を低減した上で、二酸化炭素を放出させず地球環境にも配慮した解体を実現しました*3
今後、本工法を放射線施設をはじめ、解体が困難な様々な現場へ積極的に適用し、工事現場周辺の環境および地球環境に配慮した工事を進めて行く予定です。

  • ※1「建物解体時の環境負荷を低減」を狙い開発した工法 https://www.toda.co.jp/news/2021/20211208_003004.html
  • ※2リニアック室は、X線や電子線を用いてがんなどを治療する施設。その際に発生する放射線を鋼板やコンクリートで囲い遮蔽している。
  • ※3特許出願中。
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写真1 リニアック室の遮蔽鋼板の解体状況

適用の背景

病院に併設されるリニアック室では、放射線を遮蔽するために質量の大きい遮蔽鋼板と鉄筋コンクリートで非常に厚く堅固な躯体を構築しています。中でも遮蔽鋼板は、鋼板を複数枚重ね合わせ、その側面を溶接し一体化させた上で、鉄筋コンクリートで覆われていることが特徴として挙げられます(図1)。
これまでのリニアック室の解体では、はじめにブレーカーを使用した打撃解体工法により鉄筋コンクリート部分をすべて破砕除去した上で、プロパンガスなどのガス切断で遮蔽鋼板を撤去していました(図2)。そのため、ブレーカーによるコンクリート打撃解体で騒音、振動、粉塵が発生することや、極厚の複層鋼板の切断に時間と手間が掛かること、プロパンガスなどによる切断で二酸化炭素を放出することなどの課題があり、これらの課題を解決する方法が求められていました。

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図1 リニアック室の躯体概要
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図2 これまでのリニアック室解体方法

現場適用の結果

今回のリニアック室解体工事では、周辺に人通りの多い商業施設や閑静な住宅地があり、近隣環境への影響を低減することが課題でした。解体は、はじめに圧砕機によりコンクリートを部分的に圧砕し、そのあと表出させた極厚の複層鋼板を本工法により一度で切断、撤去する手順で実施しました。ブレーカーを使用しないことで近隣環境へ配慮した解体を実現し、さらに地球環境への負荷軽減にも貢献することができました。

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写真2 切り出した遮蔽鋼板

今後の展望

今後、本工法を、困難な解体作業を抱えている作業所へ積極的に適用し、工事現場周辺の環境へ配慮した工事を進めて行きます。また、当社は、平均気温上昇に関してパリ協定で示された目標値(1.5℃)を達成するため、様々な取り組みを実践しています。その一環として、建設工事における水素エネルギーの利用拡大にも取り組み、脱炭素社会の実現に貢献していきます。

補足資料

  1. 1従来工法の課題

    従来の解体における課題は以下のとおりです。

    1. (1)ブレーカーによりコンクリートを打撃解体するため、騒音、振動、粉塵が発生する。
    2. (2)一般的に建設現場で使用する手持ちのガス切断設備では、150mm厚の切断が限界となる。また、複層鋼板の切断が難しく、切断可能な範囲で少しずつ鋼板を切り取りながら撤去するため、時間と手間がかかっていた。
      (一般的なガス切断は、鉄と酸素の酸化反応熱を利用し、鋼材を溶融しながら切断している。遮蔽鋼板は、鋼板を複数枚重ねているため、鋼板と鋼板の僅かな隙間が存在する。その隙間が酸化反応の障害となり、極厚の複層鋼板を一度に切断することができなかった。)本工法は、厚さ1m以上の鉄筋コンクリート部材を切断した実施例があります。
    3. (3)プロパンガスなどによるガス切断では多くの二酸化炭素を放出する。
  2. 2本解体工事の概要

    本解体工事におけるスラブ部分、壁部分の解体手順を以下に示します(図1)。

      1. (1) スラブコンクリートの圧砕解体:スラブコンクリートを圧砕機で部分的に解体し、遮蔽鋼板を表出させる。
      2. (2) スラブ遮蔽鋼板の切断撤去:切断する遮蔽鋼板を支保工およびクレーンで支持しながら、マスカットH工法Ⓡで遮蔽鋼板を切断し(吊切り)、揚重撤去する。

    (1)と(2)を繰り返して、スラブ部分を撤去する。

      1. (3) 壁コンクリートの圧砕解体:壁コンクリートを圧砕機で部分的に解体し、遮蔽鋼板を表出させる。
      2. (4) 壁遮蔽鋼板の切断撤去:切断する遮蔽鋼板をクレーンで支持しながら、マスカットH工法で切断し(吊切り)、揚重撤去する。

    (3)と(4)を繰り返して、壁部分を撤去する。

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    図1 マスカットH工法を用いたリニアック室解体手順