浮体式洋上風力発電事業 Vol.1 浮体式洋上風力発電
【戸田建設の挑戦編】

地球温暖化を抑制するために、再生可能エネルギーの技術開発が喫緊の課題です。
わたしたちは総合建設業の力を活かして、この課題に取り組みます。

浮体式洋上風力発電の実証事業は、世界でもノルウェーとポルトガルそして日本[椛島]の3か国でしか行われていない先進的なプロジェクトです。
主に土木事業の技術開発に取り組んでいた戸田建設は、2007年には、陸上用風力発電のタワー部にプレキャスト・コンクリートを用いる技術(STEPSタワー工法)を開発しました。その技術を応用したハイブリッドスパー構造を、今回の小規模試験機に採用しています。

浮体式洋上風力発電

再生可能エネルギーとして大きな期待を集めている風力発電。現在は陸上での設置が中心ですが、立地の可能性が高いことから、洋上風力発電が注目を集めています。
戸田建設はその中でも水深100mを超える深い海域で、設置可能な浮体式洋上風力発電の実現に向け、実海域実験などの技術開発に取り組んでいます。
この風力発電施設の浮体は、図のように細長い円筒形でプレキャストコンクリート(PC)製セグメントを下部に、上部を鋼製とするハイブリッド構造になっています。

プロジェクト概要

2007年から京都大学と共に始めた浮体式洋上風力発電のプロジェクトは、1/100と1/20スケールの実験を経て、2009年に1/10試験機を佐世保の港内に設置しました。その建て起こし作業は、事前に行ったシミュレーション通りの結果が得られ、これを足がかりに、小規模試験機(1/2)の設計に取りかかりました。

京都大学と共にスタートしたこのプロジェクトは2010年に環境省の実証事業として受託したことで大きく進展しました。また、事業を全面的にバックアップしていただいたのがFOWT(Floating Offshore Wind Turbine)という約20の団体によって組織されたコンソーシアムです。受託者グループに加えて、大学やメーカー、電力会社など、さまざまな業種の企業や団体が集まり、技術開発をサポートしています。今後、この組織が浮体式洋上風力発電の発展を押し進める原動力となると考えられます。

2007-2009年までの実験:左から1/100、1/20、1/10スケールでの実験

もともと戸田建設では浮体部の建設のみを担当していましたが、地元住民への説明会や許認可の申請などに事業全体のマネージメントが必要となり、総合建設業としての経験が期待され、最終的に代表として事業を取りまとめることになりました。
企画から施工、そしてメンテナンスまで、お客様の要求をまるごと引き受けるという体制が、総合建設会社の目指す1つのかたちでもあります。

小型試験機の施工手順

  1. 1円筒形の型枠を高速回転して、コンクリートを流し込みます。
  1. 2下部浮体部は10個のコンクリート製リングをつなぎ合わせます。
  1. 3鋼製の上部浮体部は、風車の組立岸壁近くの工場で製造しました。
  1. 4浮体部の下部をコンクリート、上部を鋼でハイブリッドしたスパー(円筒)に、タワー部(デッキより上部)を連結します。
  1. 5風車を取り付けた後、大型の起重機船で慎重に吊り上げて、五島に向けて搬出します。

立ち上がる風車

小規模試験機は、2013年に設置される実証機の1/2サイズとはいえ、全長約70m。さらに海上での工事は天候に加えて波の影響に左右されます。天気がよくても、海は荒れている場合もあるため小規模試験機は、海上での作業日数を可能な限り減らすため陸上で組み立てられました。それにより、実質3時間程度で建て起こし作業が完了。建て起こしながら沈めていくと、一定の角度になると風車が自然に立ち上がります。

小規模試験機(1/2)の設置

2012年6月の小規模試験機の建て起こしでは台風の土用波に見舞われ、急遽、静穏な海域で作業を行うことになりました。また、設置後には50年に1度とも言われる巨大な台風が2度も通り過ぎました。観測記録によれば、約10mの波に加え、強風が風車に吹き付けました。幸いにも風車に被害はなく、設計条件が適切であることが証明されました。結果的には、実証機の設計に対する自信につながりました。

1量産化が可能
工場で製作したコンクリート円管を並べ、PC鋼棒で緊結し、鋼製部分と接続するだけで、すぐに曳航、洋上設置できます。
2安定性が高い
海面近くを細くすることで、波浪の影響を受けにくいだけでなく、風向きによる動揺特性の変化もありません。
3工費が安い
コンクリートと鋼を、それぞれの特性を生かしてバランス良く配置することで、全て鋼製のものに比べ大幅なコストダウンを実現しました。
地元からの期待の声

浮体式洋上風力発電施設は見た目のインパクトや海面に浮いているという特徴から発電施設としての役割以外にも様々な期待が寄せられている。
今回、小型試験機を設置た五島市の職員からはこのような声が上がっている。

五島ふくえ漁協組合
組合長
熊川長吉さん

風車が漁礁のような役割となって風力発電のタワー周辺に魚が集まるのではないかと期待しています。

五島総務課長
東條一行さん

五島市ではもともと環境事業への取り組みが盛んです。観光や雇用の面からも、エコ事業により力を入れる予定です。