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ワークライフバランスで人と企業の価値創造を実現

各企業の社会的責任として、ダイバーシティへの積極的な取り組みが求められている今、建設業界においても「働き方改革」や「ダイバーシティ」への取り組みに力が注がれています。今回、多忙な仕事と私生活の調和を図りながらワークライフバランスを実践されている弁護士、菊地幸夫さんをお迎えし、ワークライフバランスの重要性と実践のヒントなどについて、ダイアログを実施しました。

ダイアログ参加者プロフィール

菊地幸夫氏
弁護士(第二東京弁護士会)
番町法律事務所

弁護士として民事、刑事事件、企業法務などを担当。弁護士業務の傍ら地元のバレーボールチームの監督業を努め、トライアスロンや登山など自身の体力づくりにも勤しむ。「行列のできる法律相談所」や「スッキリ!」をはじめ、複数の番組にレギュラー出演するほか、講演活動も行う。

戸田建設株式会社
代表取締役社長
今井雅則

開催日時:2017年12月1日(金)
場所:戸田建設本社 会議室

不規則・多忙な業務のなかでもワークライフバランスを実践

今井: 2018年は、社会的に進む働き方改革の波がさらに加速することが予測されます。当社も独自のワークスタイルコンセプトのもとで働き方改革を進めるなか、いかに社員一人ひとりがワークライフバランスを実現していくかが課題となっています。菊地先生は、非常に多忙にもかかわらず、私生活とのバランスを見事にとっていらっしゃると伺いました。どのようなライフスタイルで生活されているのでしょうか。

菊地: 平日は四谷にある事務所を拠点に、弁護士業務に従事しています。法廷や警察に出向いたり、相談者の方との面談などが主なルーティンワークで、合間にテレビの収録に参加させていただいたり、時々は講演などをしています。そして私は、地元小学生のバレーボールチームの監督をしておりまして、週末は子どもたちと汗を流しています。その小学校では、評議委員という役を務め、授業をすることもあります。

今井: 弁護士のお仕事は、時間が不規則でしょう。それでもご趣味のトライアスロンに向けて、平日でもランニングやプールに行かれているそうですね。

菊地: 事件はいつ起きるかわからないのでどうしても勤務時間は不規則になりがちですが、少しでも時間をつくって、事務所の近くのプールで泳いだり、ランニングをするようにしています。しかし当然仕事は終わらせなければならないので、時間を有効活用し、電車に乗っていても、出かけた先でもどこでも仕事ができるように、仕事道具一式をキャリーバックで持ち歩いています。さながら出稼ぎ弁護士のようです(笑)。

価値を創造するために人としての魅力を高める

今井: そもそもわれわれが働き方改革を進める背景には、当社が目指すビジョンの存在があります。われわれの仕事とは“価値を創造すること”。そのためには、モノをつくり上げていく社員が、人としての魅力を高め、多様な能力を持たなければ価値を創造することはできず、ひいては当社の持続的成長は望めません。ワークライフバランスは、一人ひとりがポテンシャルアップし、魅力ある人間になるための一つの方策なのです。

菊地: 魅力的な人間が企業に増えれば企業活動によるパフォーマンスは質の高いものになり、企業価値の向上につながります。社長のおっしゃる通りワークライフバランスは、社員の方々の成熟に資する考え方であり、方策であると思います。

今井: 多様な価値観が尊ばれる現代にあって価値創造をすべきわれわれは、多様な文化に触れて自身の価値観の幅を広げておく必要があるでしょう。多様性を内包する企業でなければ、これからの社会では存続自体が危ぶまれるという危機感を、私は持っています。

菊地: 特に日本は、企業文化に偏っている側面があると思います。しかし企業文化は、別の文化では全く通用しない場合があります。例えば定年を迎えてリタイアし、地域の文化のなかで生きていく時に、馴染めずに苦労する方も多くいらっしゃいます。どんな文化でも通用する人間になっておくことは、自身の魅力を向上させ人生を豊かにしてくれるとともに、企業の資産になると思います。

グローバルビジョン(“喜び”を実現する企業グループ)

家族・社会・自分のために時間を投資する

今井: ワークライフバランスの考え方で時間を有効活用して、いかにポテンシャルアップするか——能動的な時間の使い方がわからず戸惑う人が多いように感じています。

菊地: 私たち法律家がワークライフバランスを語ると、労働時間の短縮や育児休暇などの法制度的な話になりがちです。もちろんそれは大事なことですが、社長がおっしゃる通り、ではどうやって時間を使うかという議論は、確かにあまり進んでいない気がしますね。

今井: 私は、家族のため、社会のため、自分のために時間を投資するべきだと考えます。もちろんその人のライフステージに応じて、どこに軸足をおくかによって変わってくるとは思いますが、例えば、子育てや介護が必要な時は、家族のために時間を投資する。そのために必要な制度は、会社として整えていきます。

菊地: 私は娘が三人おりまして、彼女たちが子どもの頃は私なりに家族のために時間を充てていたつもりです。妻に言わせれば「まだまだよ」と言われるかもしれませんが(笑)。

今井: 当社でも最近は「イクボス」が増えまして、男性の育休取得者は34名ほどになっています。

菊地: 素晴らしいことですね。子育ては一大事業。企業としてそれをバックアップすることは非常に社会的意義があることだと思います。そして、私自身は子どもの成長とともに、徐々に地域貢献へと軸足をシフトさせ、現在はすっかり週末は地域のコミュニティで過ごす時間が中心になりました。

2017年12月時点。1日単位取得者も含む。

コミュニケーション能力アップ。男性の地域進出のススメ

菊地: 私は、男性の皆さんに、地域での活動に積極的に参加することをお勧めしたいですね。最近ご相談を受けるなかで多いのがご高齢者の地域トラブルです。自分が長年働いてきた企業文化と、定年後の地域コミュニティの文化とのギャップがあり、思い通りにいかずトラブルになるケースが多いように感じています。現役時代からワークライフバランスを意識しながらいろいろな人とコミュニケーションをとり、そのまま地域にスライドすればスムーズに溶け込め、第二の人生も上手くいくと思うのです。

今井: 確かに男性は、ビジネスの世界でのコミュニケーションはできても一歩外に出たほかの世界でのコミュニケーションは、それほど得意ではないかもしれませんね。地域活動に参加することによって、コミュニケーション能力が高まることが期待できますね。

菊地: 男性のコミュニケーション能力の高まりはまた、例えば顧客の方と接する時に満足度を上げる、社内での仕事の連携がよくなるなど、ビジネスの場面に還元されてくると思うのです。

今井: ボランティア活動をするのもいいですね。地域でもさまざまな仕事があるでしょうから、自分の能力を活かし、地域・社会に貢献しながら長く働き続けることは、ワークライフバランスで目指すひとつの姿だと思います。女性の社会進出とともに、男性の地域活動進出のススメというのは、新鮮な視点です。

ワークライフバランスのベースとなるのは「健康」

今井: 限られた時間のなかで、さまざまな顔を持って活動するためのコツとは何でしょうか。

菊地: ひとつは、「健康」に気を遣うということでしょうか。適正な勤務時間で、しっかりと睡眠時間を確保し、きちんと食事をする。健康で、日常生活が前向きに送れるような環境を整えることが、ワークライフバランスのベースであると考えます。

今井:弁護士のお仕事は、ストレスも多いと思いますが、気分転換の仕方がお上手なのでしょうね。

菊地: 行き詰ると、ちょっと美術館に出かけたり、映画を見に行ったりします。その時間は完全に仕事を忘れてリフレッシュします。そんな風にしてバランスをとることで、仕事をがんばることができ、成果を出すことができると感じています。

今井: さまざまなものを見たり、経験したりして自分のために投資する時間は、心身のバランスを保つとともに、仕事にも好影響を与えます。まさにポテンシャルアップにつながると言えますね。

「ミッションコンプリート」の考え方で生産性を上げる

菊地: 弁護士は自由業であるため、ワークライフバランスを実践しやすいという側面はありますが、私も若いイソ弁(居候弁護士)時代は、ボスの下で働いていますから、やはり昼間に「すみません、美術館に行ってきます」とはなかなか言えない状況にありました(笑)。しかし仕事で結果を出すことで「これぐらい自分のために時間を使っていいだろう」と、少しずつコントロールできるようになりました。

今井: ワークライフバランスの前提となるのは、「ミッションコンプリート」の考え方です。成果を出すことができれば、時間や場所に縛られず働くことが可能だと思います。そのためには、拘束時間の長さではなく、どれだけ成果を出すことができたかで評価するシステムが必要です。例えばミッションコンプリートが達成されているのであれば半日で業務も終わらせても良いということになり、能率も生産性も上がるはずです。

菊地: 長時間働けばよいというものではなく、やはり短時間で集中して働いた方が仕事の内容も良くなります。特に建設業の場合は、長時間労働が、労働災害に直結するところがありますので、ほかの職場よりも深刻さをもってワークライフバランスの実現に取り組む必要性を感じています。

今井: 長時間労働していると、どうしても思考停止に陥りがちです。それが一番危険なこと。われわれの生命線である「安全」のためにも、ワークライフバランスは非常に重要です。

菊地: 私は労働災害について話す際、「日々新鮮に危険を感じてください」とお話ししています。この高さは大丈夫なのか、この重さは、スピードは大丈夫なのか。決して慣れることなく、危険を認識しなければなりません。長時間労働していると、危険に対する感覚が麻痺してしまいます。ワークライフバランスの実践で健康でいられれば、危険への感度が高まると思います。

自分なりのワークライフバランスを

菊地: ワークライフバランスは、自分を成熟させるものであり、社会とのかかわりを持てば社会貢献にもなります。また、成熟した魅力的な人間が職場にいるということはビジネスのうえでも有効で、四方八方に良い効果があります。自分が生きがいを感じられることに時間を投資し、心身のバランスを整えて、企業のなかで活躍していく——そういう好循環のなかで生活することが理想的です。ぜひ皆さんなりのワークライフバランスを見つけていただきたいと思います。

今井: 私たちが掲げる「喜びの実現」「価値の創造」というビジョンに向けて、社員の皆さんには自分自身のために時間を投資して、ポテンシャルアップを目指していただきたい。そして現在われわれが取り組む働き方改革を継続進化させ、自己発動型社員が活き活きと活躍する魅力度No.1企業グループとなることを目指していきます。本日はありがとうございました。

コーポレート・ガバナンスの強化を通じた企業価値の向上

当社は2016年に環境評価を行う国際NGOのCDPから、気候変動対策に優れた企業として「CDP気候変動2016 Aリスト企業」に認定されました。今回の評価を励みに、気候変動対策を一層強化するため、また、事業を通じて持続可能な社会の発展に貢献するために必要なことなどについて、外部有識者をお招きし、ダイアログを実施しました。

CDPは、環境評価を行なう国際的非営利団体です。世界の上場企業約5,000社(内日本企業約500社)を対象に、温室効果ガス排出量削減などの気候変動問題への取組みを調査し、その情報を開示・評価しています。2016年度は、世界で193社、日本で22社が最高ランクであるAリストに認定されました。

ダイアログ参加者プロフィール

末吉竹二郎氏
(国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP FI)特別顧問)

戸田建設株式会社
取締役専務執行役員
戸田 守道

戸田建設株式会社
価値創造推進室
価値創造企画ユニット
マネージャー
樋口 正一郎

開催日時:2017年3月14日(火)
場所:戸田建設本社、会議室

世界は「低炭素」から「脱炭素」へ

末吉: 2002年に質問書の送付が始まったCDPによる評価は現在、世界の色々な企業評価等の仕組みに組み込まれ、ひとつの国際的なスタンダードになったといっても過言ではありません。そのCDPのAリストに選ばれたことは、大変素晴らしいことだと思います。

戸田:ありがとうございます。CDPの質問書送付が2002年からということで、ふと2000年に建設業ではじめてゼロエミッションを達成した当時のことを思い出しました。今となってはゼロエミッションは達成すべき取り組みですが、当時は建設現場から排出される廃棄物をすべてリサイクルするというのは、画期的で、思い返すと感慨深いものがあります。当社は、世界的に環境保全への関心が高まりはじめた1990年代初頭から、「環境重視」の取り組みをスタートしました。1994年に地球環境憲章を制定し、1999年にISO14001を取得、2000年には建設現場で国内初のゼロエミッション達成、そして2010年にはエコ・ファースト企業認定など、地球環境の保全に向けた活動を積極的に進めてきました。中でもCO2排出の削減にはグループ一丸で取り組んでいます。

樋口:当社では、施工中に発生するCO2の排出削減を目的として、「低炭素施工システム(TO-MINICA)」を全作業所で展開しています。また建設のライフサイクル全般に亘ってCO2削減を実現すべく、建築設計において環境配慮を積極的に推進し、運用エネルギー消費を抑える活動もしています。こうした取り組みの成果は着実に数字にも表れ、その成果指標のひとつに据えていたCDPの評価も年々向上し、今回Aリストに認定されたことは大変喜ばしく、今後の活動を加速する励みになりました。

戸田建設が実践している低炭素施工システム。建設工事中に発生するCO2を可能な限り低減するための計画を立案し、それを実践した結果を集約する仕組み。

末吉:Aリスト認定企業ゆえに、敢えて厳しめに今後の期待を述べるとすれば、建物運用時におけるエネルギー使用のあり方でしょうか。建物やビルは一旦作ってしまうと、何十年と使い続けることになります。そうした長く使われる建物が、CO2を大量に排出するビルであって良いわけがありません。つまり、排出量のロックイン効果(固定化)の大きい建物は、未来の規制や将来の最適な形を考えて、今から作ることが望まれるわけです。世界でパリ協定が合意された結果、CO2を減らす「低炭素」から、CO2を出さない「脱炭素」へと、社会が向かう方向性が大きく転換し始めました。これは今後、さまざまな分野、ビジネスにインパクトを与えるでしょう。

戸田:近年、当社では建物運用時におけるエネルギーを限りなくゼロにするZEBの実現に向けた取り組みを進めています。実現に向けて課題も多くありますが、今後の技術開発によっては、ゼロではなく再生可能エネルギーで発電してカーボンマイナスにしていくということも考えられると思います。地球環境をより良い状態で次の世代に引き継いでいくために、そしてZEBを実現させることで当社の競争力を強化するためにも、引き続き積極的に取り組んでいきたいと考えています。

グローバルな文脈での情報発信を

末吉:もうひとつ、情報発信力における日本企業の課題もお伝えします。海外の先進企業は、高邁な未来のビジョンを掲げ、それに対してのロードマップを示します。一方、日本企業は、不確実性が高い未来の事象について多くを語らず、現在実践していること、または確実に実現できる範囲の未来について語ります。いま実践していることだけを伝えるのではなく、これから進もうとしている方向や、実現したいことを示した上で、自らの企業活動を社会に伝えるべきでないかと考えます。できていないことはできていない。しかし、ロードマップの中で、これくらいのことは実現するということを、一定規模の企業は社会と共有する必要があり、公表する義務があると私は考えています。ですから、これから戸田建設が一段と発展していく上では、グローバルな文脈での情報発信が必要ではないでしょうか。

樋口:現在、当社では2050年の環境目標数値設定のためSBT(Science Based Target)の策定に取り組んでいますが、ご指摘いただいたグローバルな文脈で語ることが大事であることを改めて感じました。当社は2010年に、エコ・ファーストの約束において2020年の目標として高い数値目標を掲げました。当時は、社内外から本当に達成できるのかどうかを問われることもありましたが、既に2020年の目標達成は見えています。それ故、我々は2050年目標もかなり高いものとしました。確かに2050年は30年以上も先のため見通すことは難しいかもしれません。しかし、目指す姿を宣言し、そこを目指して取り組むことに意義があり、なおかつ目標達成に近づけるのであれば、チャレンジすべきだと思いました。

2017年8月4日に、認定取得しました(日本の建設業初)。SBTとは、地球の気温上昇を産業革命前の気温と比べて2℃未満にするという科学的な知見と整合する、企業の温室効果ガス削減目標のこと。CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護(WWF)が設立したScienc Based Targer Initiativeによって2015年に提唱されました。

末吉:私は、パリ協定が持つ最も重要なポイントは、将来CO2排出をゼロにするという方向性を打ち出したことだと思います。ゼロに行く方向が決まったということで、社会や企業が考え始めました。実際に、日本でも御社のように意欲的な2050年の目標やビジョンを宣言する企業が続くと思います。つまり、CO2排出をゼロにすることを目指す、その価値観の共有こそが重要であり、我々人類に求められていることではないでしょうか。

戸田:情報開示や目標設定となりますと、数字にこだわりすぎてしまうことがありますが、数字よりもまずは、我々が実現したいことや目指す姿を社会と共有することが大事であるというご指摘、まさにおっしゃる通りだと思います。環境問題を解決するためには、常に社会やお客さまと一緒に歩んでいかなければなりません。社会の皆さま方に我々の姿勢をご理解いただきながら進めていくことを今一度会社として考えていきたいと思います。

地域と協働する取り組み:浮体式洋上風力発電

末吉:数年前から長崎県の五島列島で進めていらっしゃった、国内初の浮体式洋上風力発電の進捗はいかがでしょうか。世界のエネルギー関係者がいま言い始めていることは、化石燃料が主役の時代が終わり、自然エネルギーがメインになる。歴史的にも大きなターニングポイントを迎えたいうことです。そうした点からも、本件をとても注目していましたので、是非お話を聞かせてください。

戸田:商用発電を始めて約1年経過しました。幾度か大型の台風も経験しましたが、設備の耐久性を含めて技術的な問題は解消されました。残りの課題を挙げるとすればインフラの整備でしょうか。現在、風車を設置する場所は、電力の大消費地から離れているため送配電にかかるコストが課題です。そのインフラが整えば、あとは規模の問題になりますので、順調に拡がるのではないかと推測しています。

末吉:敢えて言うならば政策の問題ですね。風力発電をひとつの日本の政策にする姿勢を政府が示さなければ、なかなか技術の伸展はもちろん、拡大しづらい状況にあるのが現状でしょうね。

戸田:実は日本近海は、風力発電にとっての適地が多く存在します。五島の海もそのひとつで、石油を掘り当てたのと同等の価値と考えていただいても良いと思います。しかし先程申し上げました通り、設置場所が電力の大消費地から離れていることから送電インフラ整備が今後の課題です。しかし一方では、地域に貢献できるビジネスであるということも言えます。当社の浮体式洋上風力は下部浮体部がコンクリート製のため、設置する地域で作ることができます。つまり、地場の建設業者の方々に参画していただけます。こうした点も、今回当社が五島市とうまく協働できているひとつの要因だと考えています。

末吉:それは現在世界中で注目されている考え方と同様です。これまでのグローバリゼーションにおけるビジネスモデルは、高い技術を持った企業が、排他的に一貫生産の仕組みを作ることで拡大してきました。これにはもちろん良い面がある一方で、さまざまな問題も引き起こしてきました。いま、そうした反省を踏まえ、より多くの企業や人々を巻き込んだインクルーシブなビジネスが求められています。いま伺ったお話しは、地域の方々と共に歩む、まさにローカルプロダクションの考え方であり、非常に良いことだと思います。今後の展開に引き続き注目・期待しています。

グリーン&プロフィッタブルな社会を目指して

戸田:建設会社が、環境への取り組みを進めて行くためには、お客さまのご理解を得なければ解決できない問題もあります。そういった観点から、お客さまに環境面でのオプション(戸田エコロジカルオプションズ)を提供するような取り組みができないかと考えています。
例えば自動車を購入する時には、さまざまなオプションの中からユーザーが自分の好みで選択するという仕組みがありますよね。当然その分価格は上がります。
建設会社がお客さまに提供する建物の環境技術についても同じ様なことができないか。我々は建物の環境性能を高めるための技術をたくさん持っています。それをご提案して、ご負担頂く部分についてもお客さまの理解を得ながら、より環境に優しいビルを建ててゆく。こういった取り組みこそが、企業としてのサステナブルな環境へのアプローチだと考えます。

末吉:おっしゃる通りです。グリーン&グリーンではなく、グリーン&プロフィッタブルな社会。つまり、グリーンな社会やビジネスは当然であり、尚且つ、それにより適正な利益が確保できるビジネスモデルを作っていく、そこに向けて社会で動き始めなければなりません。

パートナーシップで目標達成を

末吉:ここ1、2年の出来事で申し上げれば、2015年は大変重要な年でした。9月にSDGs(Sustainable Development Goals)が採択され、その直後にはパリ協定が採択されました。このSDGs とパリ協定は、これからの21世紀のガイドであり、社会の規律や要求も含めてリードしていくのはこの2つだと思います。SDGs には、17の目標と169のターゲットがありますが、ほぼ現代の社会問題を語りつくしていると言えます。同時に我々が考えもしなかった問題も盛り込まれており、世界を知る良い窓口とも言えます。

世界のリーダーが2015年9月の歴史的な国連サミットで採択した持続可能な開発のための2030アジェンダに盛り込まれた17の目標。

樋口:企業は、SDGsをどのように活用、または事業に取り入れていくべきでしょうか。

末吉:事業計画を策定する際には、SDGsでは何が要求されているのか、またSDGsに応えるにはどうすべきなのか、そのことがどうやって自社の成長につながっていくのか、もちろんパリ協定しかりです。そうしたグローバルの流れを絶えず意識した事業運営が重要になると思います。すでに多くのグローバル企業がこの二つを前提に行動し始めています。例えば、ある企業は、SDGsで示された「持続可能な生産と消費」或いは「世界の人々の健康を維持する」といういくつかのゴールに対して、今までのビジネスモデルで本当に人々のためになるのかという視点を持ち始め、商品構成の見直しを始めています。逆に言うと現在の商品構成をどう変えることがSDGsにマッチし、消費者に受け入れられて、さらに自社の成長につながるかを考え始めているわけです。こうした流れは今後、投資家側の意思決定においても、パリ協定やSDGsを軸に企業のリスク対応を分析したり、あるいは事業機会を判断する、そういう時代がいよいよ始まるだろうという感じがします。

戸田:SDGsの17項目を見ていくと当社も貢献できている分野も多くある一方で、先程ご指摘いただいたグローバルな文脈での情報発信しかり、戦略的な活動の体系化も十分では無かったと思います。言ってみれば、儒教的と言いますか、日本的なカルチャーの中でビジネスについて多くを語らない方がいいのではないかという意識があったのだと思います。しかし、今後真のグローバル化を目指す上では、SDGs的な整理と、日本的なカルチャーとをうまく組み合わせて、企業としてしっかりと語ることが大切だと、本日の対話で改めて感じました。

末吉:そうなのです。ある一定の地位を占めている企業は、社会のこういう問題に対応する責任がありますし、本業を通じて社会の問題にどう向き合うかということが重要になります。「陰徳あれば陽報あり」と、良い事は陰で行うという精神も美しいですが、社会的課題に関しては、企業としてはっきりと意思表示をしながら進めていったほうが良いのではないでしょうか。

樋口:今日お話しいただいたことや、今日気が付いたことについては、当社グループだけでは解決できないことも多くあります。我々は、お客さまをはじめとしたステークホルダーの皆さまにもっとビジョンを語り、共感いただき、ともに手を携えて持続可能な社会の実現に貢献したいと考えます。

末吉:それこそがまさにSDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」が示すところであり、サステナブルアプローチです。今後の戸田建設の活動に期待しています。

戸田:本日は貴重なご意見を頂戴し、誠にありがとうございました。

コーポレート・ガバナンスの強化を通じた企業価値の向上

日本企業の今後の成長への重要な課題として、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の強化が求められています。持続的な企業価値向上のためには、企業の統治基盤を整備して、より合理的・効率的な経営環境を実現することが前提となるからです。当社においても、2015年より適用されたコーポレートガバナンス・コード(※1)への対応を機に、一層のガバナンスの強化に努めています。より効果的な対応に向けて、外部有識者をお招きし、ダイアログを実施しました。(開催日:2016年3月22日)

ダイアログ参加者プロフィール

ニッセイアセットマネジメント株式会社
株式運用部 担当部長
チーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサー
井口 譲二 氏

戸田建設株式会社
代表取締役
専務執行役員
管理本部長
鞠谷 祐士

戸田建設株式会社
執行役員
管理本部執務
山嵜 俊博

司会: 当社では2015年12月に「コーポレートガバナンス基本方針」を制定しました。制定までの経緯・経過、またコーポレートガバナンス・コード対応のポイントについてお聞かせください。

(※1) コーポレートガバナンス・コード:政府の「『日本再興戦略』改訂2014」を受け、コーポレート・ガバナンスの強化のため策定された規範(コード)。法的拘束力はないが、企業側が本コードを実施するか、実施しない理由を説明することを求めている。東京証券取引所においても、本コードの実施に関する情報開示や、実施しない場合の理由の明記を求める制度改正を行っている(2015年6月より適用)。これを受けて、当社では2015年12月に「コーポレートガバナンス基本方針」の制定などのガバナンスの見直しと、情報開示を行っている。

鞠谷: 先ず当社におけるこれまでのコーポレート・ガバナンスの位置づけは、リスクの回避・抑制、不祥事の防止など、コンプライアンスや内部統制といった側面に重きを置いた“守りのガバナンス”が中心であったと言えます。しかし2015年6月から適用されたコーポレートガバナンス・コードでは、企業の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いた“攻めのガバナンス”の実現を目指すものである考えが示され、これまでの当社グループのスタンスを見直す必要があると考えました。そこで、企画部門が中心となって関連部門を巻き込み、それぞれの知見を集めながら「コーポレートガバナンス基本方針」の策定に向けた議論を開始しました。

当社グループの「コーポレートガバナンス基本方針」制定の経過

  • 1)コーポレートガバナンス・コードの要旨を把握し、当社グループの課題を整理
  • 2)当社グループが掲げる目標実現や中長期的な成長との関連性を議論
  • 3)コーポレートガバナンス・コードは企業が自主的に行う約束であることを踏まえ、十分に議論し、公表内容を決定

議論当初は、事業活動に対する制約と捉える傾向もありましたが、議論が進むにつれて経営改革や経営目標の達成、ひいては当社グループの企業価値の向上に向けて必要不可欠なしくみづくりであると改めて理解することができ、実現可能な範囲から計画的に対応していくこととしました。

当社グループが捉えたコーポレートガバナンス・コードの意義

  • 1)中長期的な企業の成長を目的とするものであり、当社グループの考え方と一致
  • 2)中長期的成長に向けた投資家目線でのチェックリスト(提言)
  • 3)当社グループの持続的成長を投資家へ合理的に説明するためのしくみづくりにも有用

方針策定に際して配慮したことは、投資家をはじめとした社外のステークホルダーの皆さまに、いかに当社グループの考えを合理的に説明できるかという点でした。当社グループのことを十分にご理解いただき建設的な対話をするためには、論理的な説明をすることが企業サイドに求められていると考えました。

井口: コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コード(※2)は車の両輪とよく言われますが、建設的な対話を生み出すには、スチュワードシップ・コードに則った投資家を意識した姿勢、取り組みが重要だと思います。スチュワードシップ・コードにより投資家サイドも企業を中長期な視点で分析・調査するようになってきています。そうなりますと、足元の決算数値だけでは不十分で、企業のビジョンや経営トップの志向、ビジョン達成に向けた戦略、そしてESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)の取り組み状況など、いわゆる長期的な企業価値創造プロセスに関する情報収集が必要となります。そして、そうした価値創造を支える実効的なガバナンス体制も重要な判断材料となるわけです。コーポレートガバナンス・コードは、こうした企業と投資家の建設的な対話を促す有用な対話のツールということができると思います。

(※2) スチュワードシップ・コード:機関投資家のあるべき姿についての規定(コード)。コーポレートガバナンス・コードより先に適用された。スチュワード(steward)とは執事や財産管理人の意味を持つ英語。

山嵜: 実際に2015年12月に「コーポレートガバナンス基本方針」を公表したわけですが、当社の具体的なガバナンスコードへの対応ということでは、①資本政策、②政策保有株式、③取締役・取締役会関係の3つがポイントとしてあげられます。しかし、保守的な対応になってしまった部分もあると感じています。コーポレートガバナンス・コードは個社の置かれた状況に応じて方針策定が求められる原則主義(プリンシプルベース・アプローチ)を採用していることがひとつの特徴かと思います。実際に序文には、「ひな形」的な表現により表層的な説明に終始することは「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)の趣旨に反するといった記述があります。しかし当社として、はじめて実施、運用する取り組みもあり、果たして確実に実行することができるのかなど、不安要素もあり、基本方針の記述が保守的になってしまった部分があります。

コーポレートガバナンス・コードへの主な対応状況

  • 1)資本政策
    • ・資本政策については、経営の考え方を明確に示すことが期待されていると認識
    • ・しかし、最初のステップとして投資家の皆さまに方向感を把握していただけるよう検討
    • ・その結果、2015年5月公表の中期計経営計画で、配当性向の目標として20%縲・0%の水準を数値目標として示した
  • 2)政策保有株式
    • ・当社は、有価証券の保有額が大きく投資家の皆さまから保有の理由やメリットについて説明を求められることが多い
    • ・今回の方針では、明確な保有ルールを設定するには至らなかったが、今後取締役会で年1回保有継続の是非判断を実施
  • 3)取締役、取締役会関係(選任手続き、独立社外取締役、取締役会評価)
    • ・従前より取締役会に客観的な視点を導入する必要性を認識(2014年度から独立社外取締役を2名選任)
    • ・また、取締役会および執行部門の重要人事については、社外取締役が委員長となる人事・報酬諮問委員会を設置(適性などを審議した上で取締役会に答申)
    • ・取締役会評価については、取締役による自己評価を行う方針

井口: コーポレートガバナンス・コードを形式的に全部実施することは重要ではありませんので、保守的というのは決して悪いことではないと思います。もちろん投資家サイドとしては、一定の期間ですべて実施するような体制を企業に求めたいという思いはあります。しかし、企業を取り巻く状況はそれぞれ異なりますので、むしろ、現状を踏まえて策定された方針に向かって、今後どう対応されるのかが重要だと思います。また、投資家は社外(外部)から企業を観察(アウトサイダー)し判断していますが、経営者と同じ目線で物事を捉えたいという思いがあります。ですから、可能な限り経営者の方が考えていることを開示していただき、語っていただけるのが良いのではないかと考えています。

司会: 今後の取り組みや現状の課題などについてお聞かせください。

鞠谷: 「コーポレートガバナンス基本方針」は一度策定したらそれで終わりではありませんので、今後、投資家をはじめとしたステークホルダーの皆さまとこれまで以上に積極的に対話の場を設けていきたいと思います。そして、いただいた意見を経営にフィードバックし、現状のコード対応に縛られることなく、新たなものをつくっていくという姿勢が大事だと思っています。先程、井口様のお話にもありましたが、「コーポレートガバナンス基本方針」は、当社グループの長期的な成長を推進するひとつのツールであり、社内の意見をまとめる拠り所でもありますので、実際の経営と乖離しないかたちで上手に活用していきたいと思います。

鞠谷: 今後の課題と認識しているのは、取締役の自己評価を通じた取締役会の実効性確保です。考え方のひとつとしては、取締役各人が経営理念や経営方針に基づき会社の持続的な成長や企業価値の向上に向けて何を実践したかを振り返り、その総和として取締役会を評価する。そして、目指す方向性と比較して、不足要素を明確にして、それを補う体制を構築することが重要ではないかと考えています。

井口: 取締役会評価は日本企業にとっては始めてということもあり非常に難しいところかと思います。ただ、海外では取締役会の健全な文化を保つ取り組みとして実践されています。一番大事なことは自由闊達な議論ができる状況を保つことではないでしょうか。そして、しっかりとした議論をする上では、やはり社内の目だけではなく、社外の目、つまり社外取締役の方々の役割は大きいと思います。取締役会評価は、自ら取締役会を活性化させるひとつの枠組みとして捉えると良いのかもしれません。

鞠谷: しっかりと議論のできる人選だけでなく、議論ができる風土づくりや、取締役間のコミュニケーションも大事ということですね。社外の目については、非常に重要だと実感しています。当社は2014年から社外取締役を選任しています。確かに、そこに社外の目を取り入れることで、議論の場が活性化しているという実感があります。

当社グループの今後の取り組み

  • 1)コード対応の見直しの考え方
    • ・取締役会評価や投資家意見のフィードバックを通じて定期的に見直す。
    • ・実際の経営と乖離せず、かつ投資家への合理的な説明を目指す。
  • 2)投資家への説明の充実
    • ・機関投資家向けのガバナンスに関するミーティングなどを定期的に実施し、理解の促進と投資家意見の経営へのフィードバックに努める。
    • ・資本政策や相互保有株式など投資家の注目度が高い事項については、社内での議論を深め投資家が理解可能で合理的な判断の枠組みを検討する。
    • ・経営層と投資家、アナリストの対話機会を増やす。また、当社事業への理解促進に向けて、事業別の対話機会も検討する。
  • 3)取締役会評価
    • ・企業価値向上への貢献度という視点で実効性評価(取締役の自己評価)を実施し、その結果を、経営改革に向けた議論につなげてゆく。
  • 4)株主構成
    • ・今後当社においても、長期的視野に立つ投資家の割合が多くなっていくことを想定し、ガバナンスとIR活動の一層の充実を図る。

司会: これまで話にあがったコード対応や今後の取り組みを受けて、井口様から当社に期待することなどお聞かせください。

井口: これまでしっかりと社内で議論してコード対応を進められてきたことが本日の対話を通して理解できました。今後は、もっと貴社の強みやESGの取り組みを、長期的な成長戦略と関連付けて説明されると良いのでないかと思います。投資家からの短期の質問が多いということで企業の方からご相談を受けることがあります。もちろんさまざまな視点を持った投資家がいるわけですが、企業側が中長期のビジョンやそれと関連した戦略をお持ちでしたら積極的にそうした情報を発信して欲しいと思います。投資家は、短期の情報しかなければ短期の議論しかしませんし、長期のビジョンがあれば、そこをターゲットに議論ができます。ですから、情報開示の仕方により、自社の思いに共感する投資家を集めることも可能と考えています。コーポレートガバナンス・コードの原則5にも投資家と株主の対話の項がありますが、スチュワードシップ・コードに則った考えを持った投資家としっかりと対話をしてくださいというのがコーポレートガバナンス・コードの考えであり、それゆえコーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードは車の両輪と言われる所以だと私は思っています。貴社をはじめ、日本企業の多くは、中長期の考えを持ってらっしゃるので、是非そうした考えを発信し、投資家との建設的な対話を検討してはいかがでしょうか。

山嵜: 強みやESGの取り組みを、長期的な成長と関連付けて説明するという点についてですが、どのような情報が求められているのでしょうか。ESGについては、特に投資家から直接情報を求められているという実感はまだまだ薄いように感じていますが。

井口: ESGと言いましても企業の戦略に紐づいた情報が主な対象となりますが、運用者は実はいたるところでESG情報を収集・分析し、業績予想に活かしています。「ESGはどうですか」というような直接的な質問は行いません。工場・現場見学や社員の方と対話した際のコメントや表情などからも情報を収集することもあります。ただし、すべての投資家が現場に足を運ぶというわけにもいきませんから、貴社のようにコーポレートレポートの中でESG情報を織り込んで一斉に情報発信することが重要になると思います。

山嵜: 当社でもESG情報は可能な限り開示していますが、今後の課題は戦略にいかに紐づけるかという点ですね。

井口: 欧米のある企業では、社会貢献の取り組みが企業価値向上や株主価値向上にどのようにつながっているかを解説している事例があります。またある企業では、企業戦略に紐づいたESGの指標を経営陣が自己評価している事例があります。このように指標や取り組みに意味合いを持たせることで、ESG情報が活きてきますし、投資家の判断にも影響を与えるわけです。 企業の戦略は、投資家が決めるのではなく、企業ご自身が決められるものと思っています。従って、情報発信においても強調するポイントを一番ご存知なのは企業の方と思っています。一般的な話となりますが、戦略の説明はどの企業も素晴らしいのですが、戦略実行に向けて組織や人をどうするのか、あるいはガバナンスをどう組み立てるかといった情報開示は日本では今後の課題と感じています。 株式市場では、昔、良い企業は必ずしも良い投資対象ではないといったこともよく言われましたが、長期で見ると良い企業は良い投資対象になる可能性が高い、と私は考えています。ESGに積極的に取り組んでいる企業は、収益も向上させることができると思っているからです。ですから長期投資に資するESG情報はどんどん開示された方が企業にとっても望ましいと考えています。

鞠谷: 投資家の皆さまはある面、当社を応援してくださる方たちですから、皆さまが理解しやすい形でお示しするところから改めて考えることが大事になりますね。 本日は本当に貴重なご意見を頂戴し、誠にありがとうございました。

建設業の一員として果たすべき課題 -人権と環境、持続的成長に向けたイノベーションを-

大規模地震災害時、建設会社には被害を受けた建物や、道路や鉄道などのインフラを早急に復旧させるといった重要な社会的役割が求められています。

首都直下地震や南海トラフ巨大地震の発生が懸念される昨今、当社のBCPに対する取り組みに対して評価・ご指摘いただき、事業継続能力の継続的な維持・改善につなげるべく、外部有識者をお招きし、ダイアログを実施しました。(開催日:2015年3月16日)

ダイアログ参加者プロフィール

東京海上日動
リスクコンサルティング
株式会社
ビジネスリスク事業部
主席研究員
川原場 正義 氏

戸田建設株式会社
常務執行役員
総務部長
大友 敏弘

戸田建設株式会社
総務部次長
BCP-WGリーダー
白井 光一

大友: 川原場様には、ダイアログに先立ち当社の役員・社員に向けに「BCPセミナー」として、他業種のBCP・防災に関する先進的な事例紹介をはじめ、BCP・防災のトレンドや今後取り組むべきリスクなどについてのご講演をいただき誠にありがとうございました。当社では、2006年7月に大規模地震災害におけるBCP(事業継続計画)を策定して以来、毎年12月に実施する総合震災訓練を通じてBCPの実効性の検証にあたってきました。訓練後には、浮き彫りになった課題を逐次検証しながら常に改善を繰り返し、また訓練のための訓練にならないように、緊張感をもって取り組むための工夫も盛り込みながら実施してきました。しかし、東日本大震災から4年が経過した中で、たとえば備蓄品ひとつをとっても毎年見直しする中で、どこまで震災を想定した緊張感のある準備ができているかなど、やはり震災直後に比べ緊張感や緊迫感が薄れているのではないかと懸念していました。今回のBCPセミナーを通じて、参加者全員がBCPの取り組みの重要性を改めて認識するとともに良い刺激を受けたことと思います。事務局としても、こうして社内に継続的に情報を発信してその重要性を啓発し続けることはとても大切なことだと感じました。

川原場: 2014年12月に開催された総合震災訓練では、全社一斉の訓練を実施されたようですね。

白井: 2014年度の総合震災訓練は第10回目を迎えたわけですが、当社では初めて全社一斉による訓練としました。本社をはじめ、全国各地の事業拠点やグループ会社、協力会社を含め総勢約15,000名が参加しました。

川原場: 首都直下地震や南海トラフ巨大地震の発生が懸念される中、全社規模で災害対応力のレベル合せと底上げを図ることはとても重要ですね。BCPの取り組みは、グループ全体はもちろん、サプライチェーン全体、さらには地域との連携も重要になりますから。

大友: そういう意味では、今回開催したBCPセミナーは、本社・東京支店の各部門長を中心に参加を促しましたが、今後は全国各地の事業拠点長やグループ会社はもちろん、協力会社を含めたセミナーの開催も検討したいと思います。セミナーの内容にもございましたが、やはり災害時は、各現場のトップの判断が何より重要になりますので、今後は本社のみならず、各現場のトップが過酷な状況下で意思決定するための訓練・教育といったシミュレーションの機会の創出や、セミナーによる情報提供などが大事だなと感じました。

川原場: 建物やインフラを担う建設業は、実際に災害が起きた場合の復旧作業などの対応に関してはある程度現場単位でできてしまう。つまり現場が自主的に有機的に動き、平常時の延長線上で動ける機動力やノウハウを持っていると思いますので、それは問題ないかと思います。一方で、本社機能の役割や対応が問われます。仮に首都直下を想定した場合、情報は断片的にしか入ってこない。恐らく指揮命令系統が十分に機能しない状況の中で経営層は意思決定せざるを得ない。そうした過酷な状況下における意志決定をどうするのか、課題はどういったところにあるのかなど、今後検証する必要があると思いますがいかがでしょうか。

大友: その点は以前から課題と認識しており、セミナーを受講してその重要性を再認識しました。従来の訓練は、被災調査を中心としたもので、竣工物件や作業所、社員の安否確認など、被害・被災状況を調査し、対策本部はその報告を受けるという訓練でした。今後は、意思決定を下す対策本部が主体的に模擬体験する訓練の実施を検討してまいりたいと思います。

白井: 過酷な状況下を想定した訓練の必要性についても課題と認識しており、2014年度の訓練から一部盛り込んだ形で実施しました。具体的な内容としては、発災後2時間を通信途絶、公共交通機関不通の過酷条件とし、拠点の被災調査要員が交通機関を使用せずに参集し、限られた人員で被災調査と衛星電話による連絡、報告の下、災害対策本部を立ち上げる訓練を行いました。このように部分的に過酷条件を付け加えましたが、まだまだ踏み込みは甘いと感じています。

川原場: 災害時には人員や機材、施設などの事業リソースが限定され、そうした中で実際にそれができるのかが問われますから、過酷条件を加えた訓練はとても大切です。これまでの訓練も、過去の経験や課題を踏まえて、条件を設定してやっていらっしゃると思いますが、今後は被害想定をもう少し大きめに設定するなど、被害シナリオを具体化して検証すると良いかもしれません。

白井: 確かにこれまでの訓練は、電気が使える、システムが大丈夫という想定で訓練してきました。当社には、各現場の人員や重機の数が把握できる災害時の支援システムがありますが、そのシステムも電気が通じていなければ使えません。もちろんそうした電気が使えない状況下を想定したしくみづくりは確かにしていますが、本当に首都直下地震が発生し、電気が止まりました、システムも混乱しています、復旧の目途は不明ですとなると、もっとそうした状況を想定した取り組みが必要になります。

川原場: 東日本大震災では、地震動による被害で想定されるありとあらゆる事象が発生し、事業継続上の課題も浮き彫りになりました。そうした中、政府も首都直下地震や南海トラフ巨大地震の被害想定を見直し、また再三にわたりニュースや報道などで周知されている状況下で、予見可能なレベルの地震や被害が発生し、請負責任やお客さまの要請に応えられなかった場合、どこまで想定し、計画の策定や訓練を実施していたかをステークホルダーから問われることになります。参考までに国際会計基準IFRSでは異常項目の表示を禁止しており、日本基準でいう特別利益および特別損失の区分による表示は認められないことになります。この点で考えますと、大規模地震などの自然災害により損失が発生したとしても、地震大国日本においては、事業を行う上で避けられない管理すべきリスクであり、それを別表示することは極端に言えば経営責任を回避しているかのような誤解を与えると考えられることになります。こうした社会的、世界的な文脈の中では、大規模地震にともなう経営への影響は確実に管理すべきリスクであり、ましてや他社の事業継続の基盤となる建物やインフラの復旧を担う建設業としては、少し厳しいかもしれませんが、想定外というフレーズは許されないと考えて取り組むべきかもしれません。

大友: 災害時における建設業界に対するお客さまの期待や要請は大きく、その責任と使命の重さも十分に認識しています。災害発生時にはまずわれわれが瓦礫を取り除き、道路を通行できるようにする、鉄道の線路を早期に復旧させるというように、やはり建設業でなければできない責任をしっかり果たすためにも、BCPの実効性を高めていかなければなりません。今後、さらにBCPをブラッシュアップしていく上で、重要なことはどのようなことでしょうか。

川原場: 年1回の訓練ですべての課題をクリアし、対策につなげることは難しいので、毎年さまざまな想定を置きながら、できた部分とできていない部分をきっちり把握・評価し、確実に次のサイクルにつなげる。また、訓練をやる前には、部門ごとに目標や評価軸を設定し、次の改善につなげていくというやり方を着実に積み上げることが必要でしょう。
しかしここで重要なこととして、毎年の取り組みによって継続的に改善を図る一方で、どうしても各部門や現場の人員が入れ替わるという現実もありますので、ベースとしての基本線は繰り返し続けていく必要があります。つまり、組織全体としての対応力をレベルアップしていくことがある一方で、基礎的なところは繰り返し続けるということは大事にしていただきたいと思います。

大友: セミナーでご紹介いただいた他社の取り組み事例はとても印象的に残っています。BCPを業務の効率化や、生産基盤の強化の視点で捉え、BCPを強化することが利益の向上にも寄与するという考えです。この考えは、とても興味深いものでした。当社でも業務の効率化は普段、当然ながらやるわけで、ただそれがBCPと結びついているという発想はありませんでした。

川原場: 先程も少し触れましたが、BCPは限られた事業リソースで実行することが前提なので、当然日頃の業務の無駄を省くということは非常に重要なことです。考え方の基本としては生産や業務を「止めない」のではなく、「止まる」ことを前提にいかに早く原状回復を果たすかといった視点がポイントだと思います。たとえば、メーカーの生産工程でリードタイムを数日間縮めることで、設備復旧後にモノが流れる時間もその分早くなる。また、使用している設備機械に関して常に省エネを徹底しておけば、電力不足時でも作業が回る。このように、生産工程や業務手順、サプライヤーとのやりとりなど、日常レベルで業務効率を徹底することが、BCPの維持・向上につながるわけです。また、震災対策と言いながら、究極まで改善を進めることで平時にはそれが利益につながるという良い効果も生まれてくるわけです。

白井: これまで総合震災訓練という形でBCP訓練を実施してきましたが、限られた時間やコストの中でいかに有効な訓練を実施するかを考えてきました。なかなか社内だけで議論をしていると、行き詰ってしまうようなところもありました。こうして川原場様に対話の機会をいただき、多くのご助言に感謝しています。今後も社内外に捉われず、さまざまな知見を取り入れながらBCPをブラッシュアップしていきたいと思います。

大友: 各現場のトップが過酷な状況下で意思決定するためのシミュレーション訓練や教育、また被害シナリオを具体化した検証など、本日のご助言や他社の取り組み事例を参考に、今後訓練自体を継続的に改善しBCPのブラッシュアップを図っていきたいと思います。また同時に、常日頃の業務改善の徹底がBCPの維持・向上にもつながるという考えを社内に浸透させることでも強化していきたいと思います。本日は本当に貴重なご意見を頂戴し、誠にありがとうございました。

川原場: 訓練のみかけの成功は危機管理の失敗です。重要なことは訓練の失敗にどれだけ学べるかであり、それこそが危機管理を成功させるための決定的なポイントです。戸田建設の事業継続能力の継続的な維持・改善に今後も期待しています。

建設業の一員として果たすべき課題 -人権と環境、持続的成長に向けたイノベーションを-

戸田建設では、「企業は人で成り立っている」という基本認識のもと、社員の資質、能力を最大限に発揮し、ステークホルダーとの信頼関係の中で仕事を進めていくことができる職場環境づくりに向けて、積極的に取り組んでいます。

本報告書では、人権や環境などの社会課題について活動・提言を続けておられる大久保氏、末吉氏、黒田氏をお迎えし、当社が建設業の一員として果たすべき課題についての議論をレポートいたします。(2014年3月7日開催)

ダイアログ参加者プロフィール

ファシリテーター
新日本有限責任
監査法人
CSR推進部長
大久保和孝氏

国連環境計画
金融イニシアチブ
特別顧問
末吉竹二郎氏

一般財団法人
CSOネットワーク
事務局長
黒田かをり氏

 

常務執行役員総務部長
大友敏弘

執行役員人事部長
太田哲夫

執行役員秘書部長
(広報・CSR部担当)
澁谷由規

本社開発センター
副センター長
樋口正一郎

(1)建設業界における人権課題と環境課題

人権問題は国際的なテーマ

大久保:本日は、「人権」「環境」に関する課題を中心に、戸田建設における現状と未来に向けた取り組み、社会の課題解決を通じた持続的な成長に向けたイノベーション戦略について議論を進めてまいります。よろしくお願いいたします。

黒田:人権に関しては、世界的に当該企業内の処遇や採用差別、性差別などに留まらず、取引先を含めたサプライチェーン全体での人権問題へと拡大しています。建設業では裾野が広い協力会社の重層下請け構造によってプロジェクトが進行していきますが、戸田建設ではどのような取り組みを実施していますか。

太田:人権問題という点では、社員の採用時の差別やセクシャルハラスメント、パワーハラスメントの撲滅などに向けたさまざまな取り組みを進めています。しかし、世界での人権の範囲の拡大に関する取り組みは、まだまだ不十分だと思います。

澁谷:重層下請け構造の末端の方に行けばいくほど会社の規模が小さくなり、人権問題に対する認識は薄いのが現状です。今後取り組むべき課題だと認識しています。

末吉:人権問題は、確かに世界的に幅広くなってきていますが、「人を大切にする」という企業理念のもとに戸田建設では、既に建設現場でさまざまな取り組みをしておられるのではないですか。

社長現場訓を行動理念にしている現場

澁谷:当社の現場では、「社長現場訓」を行動理念として掲げています。「今日一日無駄をはぶき親切を旨としよい仕事を致しましょう」「今日一日期限には絶対遅れない様心掛けましょう」「今日一日誓って事故を起さ無い様注意致しましょう」の三つです。品質を大事にして、期限、工期には絶対に遅れない。それと技能労働者の皆さまも含めて、やはり現場は危険がともないますので、安全第一を最重視していく。このような三つの行動理念を掲げて、安全・安心な建設工事現場の環境を守るようにしています。

樋口:実際に現場では、「社長現場訓」を徹底することが、災害・事故の防止に役立っています。現場で働く人たちの命を守ることが、最も重要な人権擁護活動であると考えます。そのために現場では、可能な限りの安全対策を講じています。足場などの安全施設には細心の注意を払っています。また、最近では、地球温暖化によって平均気温が上昇していますので、熱中症対策にも注力しています。長めの休憩や、塩アメの支給などといった細かな配慮も重要です。

黒田:建設現場では、さまざまな取り組みがなされているのですね。
世界的な流れをみていると、これまでどちらかというと別々に議論されていた人権と環境が、サスティナビリティ、持続可能社会というものをどうつくっていくのかということに、かなりの危機感を持って集約され始めてきています。人権と環境は、密接な関係があると思いますね。

環境問題として注目すべきロックイン効果

末吉:さらに人権とのつながりでは、地球温暖化の問題が重要です。建設業は基本屋外での仕事ですから温暖化による気温上昇は作業に支障をきたすばかりか、現場で働く人たちの命にかかわる人権問題でもあるのです。また、建物に関する環境問題では、最もコストパフォーマンスがいいのが断熱なのです。私は戸田建設が、断熱に着目してほしいと思います。それから注目したいのは、建物の持つ環境性能がもたらすロックイン効果です。皆さまのつくられるビルや建物は、数年で消えるものではありません。何十年という期間でそこに残り、社会に影響を及ぼす可能性があります。だから実は、ものすごく責任が重いビジネスなのです。

樋口:断熱については、日本の建設業界も取り組んでいます。新しい省エネ法では建物自体でどれだけ熱を逃がさないようにするかが評価ポイントになってきています。当社が設計し建設する建物は、環境性能をあげていく取り組みを既に進めています。街づくりや社会的な影響をもたらすロックイン効果の代表的な事例として、福島県の川俣町で復興支援からエネルギーネットワークも含めたスマートシティプロジェクトが進行中です。

末吉:いろいろな取り組みをなされているのですね。東日本大震災が起きてから3年を迎えますが、被災地の人たちの人権や環境についてはどうですか。

大友:3年前に震災がおきまして、その後すぐに現地に駆け付けました。被災地の復旧や支援については、それなりにやったなという実感があるのですが、その後、景気回復や東京オリンピック開催決定などで、工事量が非常に多くなってきました。しかし、現場で働く人たちが、大分減ってしまいかつ高齢化してきています。当社では、この人手不足への対応として、工事部門を魅力ある職場にしようということで、技能労働者の社会保険加入促進や現場の職場環境の改善の取り組みを中心に進めています。

人材不足への対応は建設業界全体で

樋口:技能労働者の人材不足に関しては、当社だけで対応するのではなく、日本建設業連合会(日建連)という業界団体を通じて積極的に推進しています。景気も上向きになりつつある中で、全体的に人材の採用が減っています。なおかつ東北エリアの協力会社は地場志向も強く、人材確保が難しいものがあります。東北の震災復興においては、建設業は相当貢献したと自負していますが、マスコミからは「自衛隊に負けたゼネコン」といわれ、口惜しい思いをしました。われわれの支援活動を社会に知ってもらう努力を怠ったことを反省しています。

大久保:これまでCSR活動として、いろいろな課題に取り組んでこられています。しかし、「戸田建設として、どういう考え方にもとづいてCSR活動に取り組むのか」というコンセプトが見えにくいため、活動が十分に評価されていないと思われます。戸田建設として、CSR活動のコンセプトを明確な形で示しながら、社会と価値を共有していくことが重要ではないでしょうか。

末吉:このようなことは、日本企業の一般的な弱点です。さまざまなメディアで何をやるかは詳しく発表しているのですが、「なぜ」というところが弱いのです。大きな社会のインフラづくりにかかわっている戸田建設が掲げる、社会全体に対するビジョンに共感してもらえば、「じゃあ、戸田建設を応援しようじゃないか」「彼らに頼んで、ビルを、街をつくってもらおうじゃないか」そういう風に話がつながっていくはずです。だから、自分たちが社会に関与できることを積極的に訴えていけば、もっと伝わるのではないでしょうか。それに、もっと自信をもっていただきたい。戸田建設は100年以上続いています。それは、日本の社会と価値を共有したからこそ続いたのです。もっと自信を持って、堂々とアピールすればいいと思います。

(2)持続的成長に向けたイノベーションを生むために

社会の変革を経営に取り込むためのストーリー

大久保:社員一人ひとりが、自社のコンセプトをストーリーとして整理することは、社員にとっては、自尊心を持ち、働いている組織への帰属意識を高めます。他方、ステークホルダーから見ても、どういう会社なのかを理解しやすくなることで、それがブランドとして定着し、結果として企業価値を高めることになります。

澁谷:社会の変革を経営の中に取り込んでいくということは非常に重要です。当社のCSR経営として4つの方針をあげていますが、その中で本業における「ものづくり」で社会に貢献していくことが重要であると考えます。たとえば、公共事業のお客さま(発注者)は、官庁や地方自治体ですが、実際にそれをお使いになるのは、国民、社会の皆さまです。すなわち、戸田建設は国民の共有財産をつくりこんでいるのです。すると、品質の優れた、より安全で快適にできるものを社会に提供していくことが戸田建設の最大の使命であり、その使命を果たすための技術革新、技術開発に注力していくことが大切です。そこで組織体制を整備し、本年1月より「価値創造推進室」を立ち上げ、技術革新、技術開発に力を入れています。

大久保:その前提として、どんな社会課題に取り組むのかということのコンセンサスが、ステークホルダーとの間でとられているでしょうか。真に価値のあるものづくりのためには、社会と共有できる価値が必要です。明確なコンセプトのもとで戦略的な取り組みをすることが企業価値の創造につながると思います。

樋口:環境面では、毎年各支店で、取り組んでいることを報告し、それに対して協力してくださいという説明をしています。その際に、「何のためにこれをやっているの?」「これをやることによって会社にどのような利益があるの?」という質問がありました。地球を温暖化させないのが建設業の最大の役目なので、建物を省エネ化することによって、温暖化のガスが減っていくことを説明していますが、なかなか理解してもらえないという状況です。

澁谷:確かにさまざまな社会的課題を、当社の課題としてとらえ、統一したコンセプトとして発信できていないかもしれません。経営方針を掲げてさまざまな取り組みをしていますが、理念が協力会社の技能労働者に至るまで浸透させるための橋渡しがうまくできていない部分もあるのではないでしょうか。

未来に向けた夢ある仕事のストーリー化

末吉:ここでひとつご質問よろしいでしょうか。新しく注文を受けて、皆さまの仕事が始まる時に、どういう形で、その現場で働く人たちに、このプロジェクトの意味について話しておられるのですか?

樋口:お客さまの建物をつくる目的や意味は、営業から各現場監督、所長に周知徹底されています。現場では、施工運営方針として社員、各協力会社に周知しています。

末吉:それぞれのプロジェクトのいい点と意義を、もっと明確にメッセージとして社会に対して出されると良いかもしれないですね。ここまでの議論を聞いてきて、これまでは、戸田建設がいいと思ってやってきたことが社会にとっても良かったのです。しかし時代が変わり、今までの価値基準や考えにクエスチョンマークが付き始めたのです。たとえば、「安全・安心・高品質・快適」は、健常者だけでなく社会的弱者に対しても求められています。今までの「安全・安心・高品質・快適」から社会の要求が変わってきたのです。お客さまとビジネスの話をする際に、社会の変化をどのようにとらえ、課題を解決するために、戸田建設はこのような技術、品質、施工あるいはコスト上の強みがありますとアピールしていく必要があるのです。それが時代の変化を先駆けた建物として体現されていて「世の中はこういう方向に考えていけばいいのだ」、「自分たちのビジネスでは、こういった配慮ができる」と、社会に戸田建設の建物のコンセプトが波及効果を持つようになってくると、先ほど申し上げたロックイン効果が出てくると思います。

大友:今までの133年の歴史を考えますと、当社は世の中の動きに先駆けてやるというのが、あまり得手ではなかったと思います。しかし、環境への取り組みなどから他社に先駆けた動きができるようになってきました。今後はこのような取り組みを通じて、お客さまとのコミュニケーションも深まるようになっていくと思います。

澁谷:その代表的なものが、昨年のレポートで特集した浮体式洋上風力発電です。全体の取りまとめ役として、事業を牽引する役割を担っています。

末吉:私が以前在籍した銀行では、「お金を貸す責任を考えろ」といわれています。貸したお金がビジネスを通じて、環境や社会にどういう影響を及ぼしているのか考えて、お金を貸すことを社会が要求している。現在の社会では金融業と同様に、建設業に対しても「建物をつくる責任を考えろ」という流れがあります。だから社会や環境に配慮した建物をつくるべきだという観点から、建設業からお客さまに働きかけるべきです。経営方針に謳われている「社会福祉の増進」につながる浮体式洋上風力発電は、その一歩となる事業ですね。

黒田:ダイアログ前に、私は建設業のCSRに対してややマイナスのイメージを持っておりました。しかし、お話をうかがっていると、これからの持続可能な社会をつくるとか、未来をつくるとか、まさに川俣町でやられているような街づくりといった、新しい何かを提案していくという未来に向けた夢のある仕事をされている人たちなのだと気づかされました。今後は、そういうことをもっとストーリーとして発信をされていかれるといいと思います。

大久保:悩みは最大の商品です。社会が抱える課題をステークホルダーと一緒になって考え対話することで、戸田建設のCSR方針に共感し、ファンとなってもらうことが、企業価値を高めていくことにつながると思います。そのためにも、これまでに手がけてきた活動や、社会貢献などの事業を、適宜、社会の課題や価値の変化に応じて時代の流れに合わせた形で見直していく必要があります。決して特別なことや新しいことをするのではなく、社会の目線で自分たちの事業を見直してみる。そこに新しいストーリーをつくりながら、欠けていたものを補足し、軌道修正していくものを整理することで、新たな価値創造ができるのではないでしょうか。

澁谷:今一度全体を振り返ってみて、あらゆる活動を根本に戻って考えて、どうすれば私どもの想いが一番伝わるかということを再点検して、コンセプトを明確にしてまいります。また、先ほどの人材不足については、建設業界としても本当に真剣に取り組むべく、日建連とともに活動しております。短期間で成果が出るという問題ではありませんが、技能労働者の処遇改善や女性の活用など、これからも積極的に取り組んでいかなくてはならないと思います。今日は本当に貴重なご意見をいただきまして、ありがとうございました。

スマートシティ:スマートコミュニティと同義語で、スマートグリッドやエネルギーマネジメントシステムによる消費エネルギーの最適化を行い、交通や公共サービスなどを統合的に管理・制御する環境配慮都市のこと。

特集3 ダイバーシティマネジメントへの期待と課題 多様性の観点から今後の人財育成の方向性を探る(ステークホルダーダイアログ)

ダイバーシティマネジメント(Diversity Management)とは、個人や集団間に存在するさまざまな違い、すなわち「多様性」を競争優位の源泉として活かすために文化や制度、プログラムプラクティスなどの組織全体を変革していこうとするマネジメントアプローチのことをいいます。

戸田建設では、「企業は人で成り立っている」という基本認識のもと、広く関係する人々が、資質、能力を最大限に発揮し、信頼関係の中で仕事を進めていくことができる職場環境づくりに向けて、積極的に取り組んでいます。

ダイアログ参加者プロフィール

ファシリテーター
ダイバーシティ研究所
代表理事 田村 太郎氏

執行役員 人事部長
太田 哲夫

本社 人事部人事1課
主任  村山 博一

本社 人事部人事2課
寺西 貴絵

本社 人事部人事1課
長谷川 勇気

国際支店 建築営業部
課長 廣田 健二

本社 建築積算部
周 潔

 

多彩な顔ぶれが集まりました。

田村:ダイバーシティ研究所代表の田村です。ダイバーシティとは、色々な人の違いを大切にしながら、みんなで強みを活かし合い新しい組織や地域をつくるという考え方です。そのためにどんな工夫をすれば良いのか、どんな組織のルールをつくれば良いのか、どんな地域の工夫をすれば良いのか、ということを研究しています。この2年間は東北の被災地でも復興のお手伝いをしています。さまざまな人が暮らしやすい社会や地域をどうやってつくっていけば良いのかということをライフワークにしております。よろしくお願いします。では皆さん、自己紹介をお願いします。

寺西:本社人事部人事2課の寺西です。私は1996年に入社しました。現在は給料計算や社会保険を担当しています。2006年の12月に第一子を出産し、それにともなって育児休暇を取得しました。子どもが年末に生まれたことから、2008年3月までお休みをいただき、2008年の4月に復帰しました。その後、2011年1月に第二子出産ということで再び育児休暇を取得し、2012年の4月に復帰しました。現在は、育児短時間の制度を使って、通常よりも1時間早く帰る勤務を続けています。私が第一子を出産した当時は、育児短時間の制度がありませんでしたので、一子と二子の4年の間で、制度的にも充実してきたことを実感しています。

村山:本社人事部人事1課の村山です。私は1995年に入社しました。最初は名古屋支店の土木工務に配属され、現場で原価管理や近隣対応を担当していました。その後九州支店の土木工務に異動になり、2003年に本社人事部人事1課に異動になりました。人事部では、教育や採用の業務のほか、人事考課などの企画業務を担当しています。私は、男性社員で初めて育児休暇を取得しました。よろしくお願いします。

長谷川:本社人事部人事1課の長谷川勇気です。普段は清掃の仕事をしています。この会社に入ったのは2013年4月です。よろしくお願いします。

周:私は2011年4月に入社しました。最初は関東支店の北戸田再開発という現場に配属され、2年間にわたって鉄筋工事や内装工事を担当し、2013年4月から本社建築積算部に1年間研修という形で異動しました。私は中国人ですが、日本に来て10年目になります。よろしくお願いいたします。

廣田:国際支店建築営業部営業2課の廣田です。私は1991年に入社しました。東京外国語大学の英語を専攻していたので、入社当初から海外勤務を希望していました。横浜支店の建築工務で5年間、主に外勤の工務を担当した後、1996年に日本建設業団体連合会に出向、米国ワシントンD.Cに赴任し、1998年東京支店の海外部に配属され、ハノイに駐在しました。2003年バンコクの地域統括事務所に異動となりましたが、2005年に再びベトナムに戻り、2009年戸田ベトナムという現地法人の設立にかかわった後、営業を担当しました。2011年9月に帰国し、国際支店の建築営業部に配属され、現在に至っております。

太田:人事部の太田です。1991年から20年以上、人事の業務に携わっています。どの企業でも、ダイバーシティやワークライフバランスというテーマはなかなか思うように進んでいないのが現状です。このダイアログでは、皆さんのお話をお聞きして、何が課題なのかということをよく考え、今後取り組みを検討する糸口にしたいと思いますのでよろしくお願いします。

田村:このダイアログでは、大きく4つのテーマでお話を進めていきます。1つ目は「多様な働き方」について。例えば子育てや親の介護など、人生のイベントの時に会社を休まなくてはならない、あるいはまた戻ってきたい、そういう「多様性な働き方」にどう配慮すれば良いのかということがテーマです。2つ目が「グローバルな人財の育成」です。異文化間のコミュニケーションにおける課題がテーマです。3つ目は「障がい者雇用」です。日本でも少しずつ障がい者雇用が進んできていますが、実際どんな課題があるのか、これからどういう風に進めていけば良いのかがテーマです。最後は、戸田建設においてこれからどんな可能性があるのか。あるいはどんな課題があるのか、ということを皆さんにお聞きしたいと思います。

制度を活用して充実したワークライフバランスを

窶披€蝿邇刹x業制度を取得された寺西社員と村山主任から、子育てと仕事という観点で、難しい点や良かった点をお話いただきました。

田村:最初に「多様な働き方」ということで、育児休暇を取得された寺西さんと村山さんから、子育てと仕事という観点で、難しい点や良かった点をお聞かせいただけますか?

寺西:大変なのはとにかく時間がないという点です。子どもの具合が悪くなったりすると保育園から会社に電話がかかってくることもあります。8時半に会社に来て9時前に保育園から電話がかかってくると、本当にがっかりで、「せっかく来たのに」と感じたこともありました。さらに、上の子どもが小学1年生になると、小学校の放課後の活動や家庭訪問などの行事が意外と多く、しかも直前に決まることが多いのです。保育園であれば就業時間内はあずけられたのですが、小学校に上がった途端に学校とのかかわりが増えてくる「小1の壁」です。一方、子どもとかかわっていく中で、子どもが成長するさまざまな場面で頑張っていることを思うと、自分もできなかったことにチャレンジしてみようという前向きな気持ちが出てきました。これは、自分がこれから働いていく上でとても重要だと感じています。

田村:職場復帰された後の周りの雰囲気ですとか、印象はいかがですか。

寺西:育児休暇の取得を推進する部門でもあるので、復帰してもあまり違和感はなく、今までどおり、リラックスして溶け込むことができました。保育園の面接を受けた際に、保育園の園長先生から「会社に育児休暇制度があって働くチャンスがあるのであれば、まずやってみてから、会社を続けるかどうか考えればいいのではないか」と、かけられた言葉が今も忘れられません。

田村:村山さんも育児休暇を取得されましたが、そのきっかけを教えていただけますか?

村山:年代的には、男性で育児休業を取るという発想自体はありませんでした。ですから、1人目が生まれた時は取得しませんでした。でも1人目の子育ての時が大変で、妻が出産して2ヵ月目位の時に入院してしまったのです。それがきっかけとなって、自分も、急に休まざるを得ないような状況になりました。その時、職場の皆さんに迷惑をかけてしまったなという反省もあったので、2人目の時には妻にあまり負担をかけないように、また職場にも迷惑をかけないようにしようということで、育児休暇を取得しました。

田村:お休みを取られる前と後とでどうでしたか?

村山:私の場合は、5日位の短期育児休暇でしたから、周囲の反応が変化したというようなことは一切ないです。部門としても育児休暇を男性が取得するのを推進していたので、「やっと取ってくれたな」という雰囲気の方が強かったですね。

田村:海外では、このような問題に対してどのように対処されているのでしょうか?

廣田:ベトナムでは大家族で生活しているので、そういった中で子育ても家族全員で分担しています。女性の社会進出という点では、日本よりもはるかに進んでいます。

田村:日本にはない洗濯代行などの安価なサービスも充実していますからね。「多様な働き方」という点では、育児だけではなくて、親の介護での休暇と復職のサポートも課題です。太田部長、戸田建設としての今後の展望などをお話いただけますか?

太田:介護休暇を取得した人は1人か2人ほどいますが、介護の場合は本人が60歳近いとか、あるいは再雇用で60歳を過ぎている方が大半でしたので、退職して介護に専念するというケースが圧倒的に多かったです。介護休暇については、育児休暇のようにある程度予定が把握できるわけではないので、制度を拡充すれば解決できるものではありません。むしろ、ある程度目途がついた時に、会社に戻りたいという人に対してサポートをしながら復職させるということを検討していきたいと考えています。

外国人の社会生活の基礎は家族。

窶披€白・草lの周社員と海外勤務が長い廣田課長に、戸田建設で外国人が働くことの課題についてお話いただきました。

田村:では、「グローバルな人財の育成」のテーマに話をうつしたいと思います。まず、周さん。戸田建設に入社した動機も含めて、日本の企業を選んだ理由をお話いただけますか?

周:私は10代から日本で生活していますから、日本は私にとって第2の故郷です。しかも大学で建築を6年間勉強していたこともあり、就職先は、日本の企業、建設業が自分に一番合っていると思いました。大学時代は、大学の近くに公務員宿舎が建設されていたので、毎日通学する時に現場の人たちをみていたことも決め手になりました。建設業の達成感というのを実感できたからですね。

田村:実際に日本の会社で働いてみて、中国人の考え方と日本人の考え方で、違う点や同じ様に大事にしている点はいかがですか?

周:日本は家族よりも社会生活を大事にしていますが、中国では、家族とその延長線上の人たちをとても大切にしています。社会の基礎が家族なのです。中国の家族には親戚も含まれていて、大きな家族という概念があります。その絆をいつも大切にしています。

田村:日本企業の仕事の考え方で気になることはありますか?

周:日本企業は終身雇用制があるので、会社に貢献するのが普通なのですが、中国では2~3年位で転職するのが普通です。また、新卒を雇用するという慣行もありません。新卒と転職者、帰国者が平等に競争するのが普通です。ですから中国企業の社員は、個人主義の傾向が強いですね。

田村:今後、日本の会社はどうしていったら良いと思いますか?

周:日本企業は、チームワークでひとつの大きな仕事ができます。中国企業は、チームワークもなく社員が会社に貢献するというモチベーションもありません。会社は自分の能力を発揮する場という位置づけです。評価も報酬も、成果主義が浸透しています。

田村:戸田建設の中で変えてみた方が良いと思うことはありますか?

周:私が戸田建設で一番良いと感じているのは、人の温かさです。しかし、部門間の連携が弱い部分があるので、もっと組織間の連携を強化した方が良いと思います。

田村:ありがとうございます。次に海外で非常に長い経験がある廣田さん。その経験で気づかれた、日本人の考え方として大事にしていることが、ベトナムやアメリカではなかなかうまくいかなかったという事例はありましたか?

廣田:基本的に海外では、家族あるいは友達を中心に社会が動いています。特にベトナムでは、冠婚葬祭が生活の中で重要な位置を占めていて、お日柄の良い日、良い時間に、平日の勤務時間などお構いなしにやってしまいます。その時は必ず休みを取らせてやらないと、なかなか社員がついて来てくれません。また、残業を極端に嫌いますね。日本でも減っていますが、滅私奉公という意識を持つ人がいないのでその辺はやはり海外で苦労します。

田村:個人の考え方の違いはありますが、仕事観ではどうでしょうか?

廣田:日本人の良いところは、相手が1言うと10理解しようと努力することです。あうんの呼吸で動いていくことができる民族です。しかし、海外は契約社会であり、10説明しようと思ったら10言わないと分かってくれない。あるいは、10に変えさせようとすると20や30言わないと伝わらないことがありますね。

田村:TODA COMMUNICATION 103号の「ブラジル戸田」の記事を読みましたが、現地の人が工期がルーズだからといってこちらもルーズになってはだめだということが書かれてありました。10に変えさせようとすると、20や30言い続ける。これはすごく大事なことですね。

廣田:戸田建設が海外で工場を建てるのは日系企業が多いので、工期と品質管理について、日系のゼネコンとしての自負とプライドが必要ですからね。

田村:これから、グローバルな人財が戸田建設に入社して活躍するためには、どんな工夫をすれば良いと思いますか?

周:やはり会社に相応しい人。国籍に関係なく、最低限のスキルとレベルが必要だと思います。後は、国内社員向けに英語のトレーニングなどの制度をもっと充実すれば良いと思います。

廣田:私は、人事制度を統一して、海外で採用した人でも役員に昇進できる制度が整備されると良いと思います。海外の現地法人の社員はその現地法人でポジションがとまってしまいますから、なかなかその先が見えないジレンマがあるように感じます。

誰にも負けないモップ掛け

窶披€拍痰ェい者雇用について、長谷川社員に、戸田建設で働きたいと思った理由についてうかがいました。

田村:次は「障がい者の雇用」です。今日は長谷川さんに来ていただいていますが、まずは長谷川さんが戸田建設に就職を決めた理由、ここで働きたいと思った理由についてお話してください。

長谷川:特別支援学校では、将来の職業について色々と勉強する機会がありました。清掃、事務、物流作業、食品関係、福祉・介護など、さまざまな業種の中で私は清掃を選んで、戸田建設へ実習に来ました。その時に良い評価が出たので、ここに就職したいと希望しました。そして就職することができ、2013年4月に入社しました。

田村:実際に仕事をしてみて、仕事をする前に思っていたことと違ったことや、新しく感じたことなど、気づいたことはありますか?

長谷川:生活のリズムが変わりました。6時半から仕事開始なので、朝起きるのは4時20分位でやっと慣れてきたという感じです。学生時代は夜更かしなどしていたのですが、朝早く起きるようになって元気になりました。

田村:それは良かったです。将来に向けて、これからどんな風になりたいですか?

長谷川:将来は清掃業務の主任になりたいです。今まで汚かった場所が綺麗になるのは気持ち良いことなので、清掃の仕事を極めていきたいと思います。

田村:何か得意なことはありますか?

長谷川:モップ掛けです。ここにいる方の誰にも負けない自信があります。

田村:ありがとうございます。太田部長、障がい者雇用という点で、身体障がい者の受け入れについてはいかがでしょうか?

太田:長谷川君は障がい者雇用枠での採用ですが、障がいのあることを感じさせませんね。身体障がい者の雇用は、車いすが通れる通路、エレベーター、トイレを改修して、就業しやすいバリアフリー環境にする必要があるので、徐々に進めていきたいと思います。当面は特別支援学校の実習生の方を受け入れて、お互いの理解を深めながら、雇用の促進を図りたいと思います。

本業を活性化するヒントはダイバーシティから

窶披€剥。回のダイアログに参加したことで、参加した社員が学んだことや気づきについて話していただきました。

田村:では最後に、今後の課題と展望というところにうつりたいと思います。これはぜひ皆さんから一言ずついただけたらと思います。

寺西:今回皆さんの普段聞けないようなお話を聞けたので、すごく興味深く有意義な時間で楽しかったです。それで強く感じたのが、皆さんの得意分野や能力を活かしていくことが大切で、その力を発揮するためにまず相手のことを理解することだと思います。そのためには、新しく制度をつくることや制度を変えることも大事なのですが、その前に今ある制度を最大限活かしていく環境をつくるべきだと感じました。

村山:今回、皆さんのさまざまなお話を聞いて一番感じたのが、困っている体験をした方の声を聞くことの大切さです。育児は自分が体験したことなのでよく分かるのですが、例えば、介護になると実際介護に困っている人たちが先輩たちにたくさんいらっしゃると思うので、その人たちのニーズやどこに一番困っているのかということを、その人たちから聞いて学びたいと思いました。海外のグローバル人財の育成についても、あるべき論とは違う実際の現場の声をよく聞くということが大事だと思いました。長谷川君についても、働いている人の考え・声を大事にして、それを施策に反映していくようなしくみをつくっていきたいと思いました。

長谷川:今日、色々な経験をしている人のお話を聞いて理解し合うことが大切だなと思いました。子育てのお話とか、海外で働いていた方の話を聞いて、将来私が海外の方との交流や子育ても経験すると思うので、とても参考になりました。

周:日本の経済は、6年ごと位に景気が良くなったり悪くなったり変動していると思います。会社としても、その変動に合わせて変わらなくてはいけないと思いますが、自分自身も進化していかなくてはいけないという意識が強くなりました。

廣田:私は、現在5カ所ある海外現地法人で採用した社員を、5年位の期間で良いと思うのですが、社内留学として日本の現場で働いてみるとか、監督の仕事をしてみるという教育カリキュラムを制度化していただきたいと思います。現地スタッフの戸田建設に対する意識の変化も期待できますし、日本の現場管理の手法も教育できます。このような双方向的な人財の交流を通じて、グローバルな人財育成が図れると良いなと思います。

太田:ダイバーシティマネジメントとして、ひとつひとつの制度をつくりながら、意識を変えるきっかけや働きかけを提供して徐々に変えていきたいと考えています。色々な方に能力を発揮していただくような会社の環境をつくり上げていくというのが人事の課題です。このような機会を通じて、皆さんの意見を積極的に聞きながら、ダイバーシティに取り組んでいきたいと思います。

田村:今まで、ダイバーシティやCSRは、どちらかというとコストがかかるものだと思われていたと感じます。今日お話の中にも、身体障がい者の方を受け入れるにあたって、トイレの改修が必要であるとか、子育てしながら通勤するのも大変だし、時間のやりくりも結構大変なのだというお話がありました。介護の話も出ました。しかし、これらにきちんと向き合っていくことで、会社が得られる情報というのは、実はこれから建物にどのように反映させていくのかなど、本業に直結するものではないかなと思います。つまり、さまざまな違いを理解して、その問題解決に携わっている社員が多ければ多いほど、会社全体のプロフィット(利益)につながる。外国人の人が増えれば、外国人の考え方を理解して海外で建物を建てる時に注意すべきポイントが理解できる。ダイバーシティに配慮するということをコスト要因ではなくて、むしろ本業にかなり直結してくるプロフィット(利益)につながるものととらえることが重要です。今日のような機会を今後もたくさんもっていただきたいと思います。

特集3 首都直下型地震に備えて地域と協働していく(ステークホルダーダイアログ)

戸田建設は本社ビルのある東京都中央区京橋一丁目地区で、住民の皆さんや行政と一体となって防災の取り組みを進めてきました。
今回は関連する地域の人々に集まっていただき、東京都心における今後の防災のありかたなどについて意見を交わしました。

ダイアログ参加者

警視庁中央警察署
警備課 主任
庄司巡査部長

警視庁中央警察署
警備課 係長
岸本警部補

京橋一丁目東町会
役員
関口 直一氏

京橋一丁目東町会
会長
大塚 一雄氏

中央区
総務部
防災課長
高橋 和義氏

中央区
総務部
防災課
普及係長
早川 紀行氏

東京消防庁
京橋消防署
予防課長 消防司令長
久貝 壽之氏

東京消防庁
京橋消防署 予防課
自衛消防担当係長
消防司令
神田 美紀氏

戸田建設
執行役員
本社 総務部長
大友 敏弘

戸田建設 
本社 総務部
課長
白井 光一

戸田建設
本社 総務部
主任
佐藤 洋人(司会進行)

ダイアログ概要

日程:2012年6月6日(水)
場所:戸田建設本社会議室

地域ぐるみの防災活動に取り組む

——京橋一丁目地区では、戸田建設をはじめとする企業と住民の皆さんが一緒になって「京橋一丁目災害協議会」という組織をつくり、年1回の防災訓練などの活動を続けています。

大塚(京橋一丁目東町会)この活動が始まったのは、2005年のことですね。最近、東日本大震災を契機に、中央区内でも町会と企業が参加した同じような組織を立ち上げようという試みが広がっているようです。しかし、私たちが始めた時には、誰もそんなことは考えず、ほかに例もありませんでした。それをもう8年も続けているのですから、これはとても凄いことだと思います。
これまでも同じような組織をつくりたいとさまざまな町会の方が訓練を見学に来ましたが、そう簡単には実現できないようですね。見学に熱心だったある町会でも、2年間かけてようやく立ち上げたそうです。

久貝(京橋消防署)年1回の訓練には、私たち消防署のメンバーも立ち合わせていただいています。防災対策で大事なことは、あらかじめしっかりとした計画を立てて、それを訓練で実践することなのですね。今回の大震災でも、やはり日頃から真剣に防災訓練に取り組んでいた組織では、対応も円滑だったようです。

高橋(中央区)この「京橋1丁目災害協議会」では、訓練ばかりでなく、関連する担当者が事前に集まって何度も打ち合わせを重ねていますね。

大友(戸田建設)確かに防災訓練はわずか1日ですが、それを実施するために半年くらい前から集まって打ち合わせをしています。訓練はもちろんのこと、そこで皆さんが集まって地域のさまざまな情報を交換することも意義があるのではないでしょうか。

高橋そういう機会を通じて地域の皆さんが顔見知りになっていれば、いざという災害の時にも非常に役立つはずです。

岸本(中央警察署)確かに住民や企業、行政の皆さんがそれぞれの枠組みを飛び越えて情報を共有し合うということは、地域コミュニティの関係が希薄といわれる現在、とても貴重だと思います。

関口(京橋一丁目東町会)もう8年ものお付き合いですから、「この相談ならあの人」というように困った時にはすぐに顔が思い浮かぶのです。今回の大震災でも、戸田建設の人に早急に連絡をとり、地域のいろいろな情報を教えてもらいました。

大塚東京都では最近、「東京防災隣組」という制度をつくったそうです。災害の時に地域でお互いに助け合おうというしくみですが、その第1回目の認定団体として私たちの「京橋一丁目災害協議会」が選ばれました。「隣組」なんて久しぶりに聞く懐かしい言葉ですが、やはり地域の「和」は大切にしたいですね。

高橋この「東京防災隣組」に選定されたように、「京橋一丁目災害協議会」の活動は、行政からも非常に注目されています。今後もぜひ継続して進めていってほしいですね。

首都直下地震を想定した新たな対策

——首都直下型地震も予測される今後、どのような対策を進めていくべきなのでしょうか。

高橋ひとつ大きな課題は、帰宅困難者の対策だと思います。昨年の大震災では、交通機関がストップして帰宅できない人たちが数多く発生して大混乱となりました。そこで中央区では現在、新たに整備する区立施設の一部をこのような帰宅困難者に開放するなどの対策を進めています。

早川(中央区)震災時の帰宅困難者については、まず自分たちがいる事業所内に可能なかぎり留まるというのが基本だと思います。しかし、家庭の事情などでどうしても帰宅したいという人もいます。そのような人については、優先順位を決めて集団で帰宅していただきたいと考えています。

白井(戸田建設)大震災の時、戸田建設ではあらかじめ決めておいた13の方面別に班をつくり、集団で社員を帰宅させました。

高橋そのようですね。今後は、戸田建設のような取り組みを区内のもっと多くの企業に広がるように啓蒙活動に力を入れていきたいと思っています。

大友この帰宅困難者でひとつ課題と感じたのが、社員の家族に対する安否確認です。家族と連絡がつかないとどうしても不安を感じるものですよね。その結果が、帰宅困難者の増加という悪循環につながります。社員ばかりでなく、家族も含めた安否確認のしくみを検討していきたいと思っています。

岸本私もあの時は、たまたま妻が妊娠中で実家に帰っていたのですが、ずっと連絡がとれずに業務中も不安でした。電話会社の災害用伝言サービスなどを使って日頃から家族間で訓練しておくことも大切です。

人命救助や災害復旧を円滑に進めるために

岸本今回の大震災では、車ばかりでなく徒歩で帰宅する人たちまでもが車道にあふれ出て、全く予想していなかったような道路渋滞となりました。東京では震度5弱で、建物の崩壊もほとんど見られなかったにもかかわらずあの状況です。今後、直下型地震を想定した抜本的な見直しが必要です。そこで警視庁では、大震災(震度6弱)が発生した場合の交通規制を新しくつくり直しました。この規制には、大きく2つのステップがあります。まず発生直後の第1次規制として環状7号線内へ一般車両の乗り入れ禁止などの規制を実施し、さらに第2次規制では災害状況に応じて緊急自動車専用の道路を新たに指定します。

庄司(中央警察署)大震災の時、私は交番に物資を運ぶために車で出動したのですが、京橋地区は渋滞でまったく車が動かない状況でした。人命救助や災害復旧のための緊急自動車を円滑に通すためには、車の総数を減らして道路を確保することがなによりも重要です。

久貝確かにあの時は、救急車が出動してもなかなか現場までたどり着けないという大きな問題がありました。

岸本防災対策では、交通規制などを整えておくだけでなく、それを事前に皆さんに知らせて理解していただくことも非常に大切です。昨年9月1日の「防災の日」に、直下型地震を想定した訓練として道路の一斉封鎖を実施したのですが、訓練があることを知らないドライバーが多くて混乱しました。これからは、災害対策の告知活動にも力を入れて取り組んでいきたいと考えています。

火災を防ぎ、火災から身を守るための対策

久貝今回の大震災では、都内で市街地が延焼するというような火災はありませんでしたが、それでも地震の揺れが原因となる火災が34件発生しています。それらを分析すると、電気ストーブなどの電気機器によるものが多く、ストーブの上にものが落下したり家具が転倒したりして火災となったケースもあります。このようなデータを参考にして、家庭やオフィスで転倒・落下防止や移動防止の対策を見直してほしいですね。

神田(京橋消防署)火災対策については、もちろん消火などの訓練は大切ですが、それ以前に火事を起こさないということが最重要となります。私は、戸田建設をはじめ企業の消火訓練に立ち合うことが多いのですが、これからは訓練とともに、火災を未然に防ぐための対策も組み込んで訓練を進めていきたいと思っています。

久貝訓練について言うと、消火などとともに応急救護にも取り組んでいただきたいと考えています。先ほど話にあったように、震災時には交通の混乱によって119番に連絡してもらっても救急車が早急にたどり着けない可能性があります。そのような状況も想定して、企業でも応急救護の習得を進めていただきたいですね。それからもうひとつ、震災への心得として、いざという時に安全に避難できるように自宅や会社周辺の火災の延焼危険地域を調べて把握しておくことも重要です。会社から徒歩で帰宅することを考えて、その経路についても同じように調べておくと良いかと思います。

白井それは貴重な意見ですね。早速、当社でも現在想定している集団帰宅ルートについて調べてみることにします。

さらなる災害に備え、地域との連携を強化

——最後に、地域における今後の災害対策について意見をお聞きしたいと思います。

高橋中央区としては、今後も防災について住民の皆さんと密接な協力関係を築くとともに、企業との連携を強化していきたいと考えています。昨年は、戸田建設をはじめとする3つの企業と、地域住民の救助活動や帰宅困難者の支援などの災害時協力協定を結びました。

白井当社では中央区との協定のほかに、中央警察署との協力も進めています。

庄司戸田建設が災害対策の一環として用意している「災害バイク隊」のオートバイを貸していただくという協定です。中央警察署では新たな災害対策として今年、レスキューと情報収集のチームを新設しました。災害時の情報収集にオートバイを活用させてもらおうと計画しています。

関口町会としての課題をあげるなら、周辺の町会と一緒にやっている防災組織と、この「京橋一丁目災害協議会」をいかに連携させていくかでしょうか。 それから今後ぜひ考えていかなければならないのは、夜間に大地震が発生した場合の対策ですね。

岸本昨年の大地震は金曜日の夕方でしたが、実は震災の発生は夜間や土日というケースが8割を超えているのです。

大塚この地区は住民の平均年齢が非常に高く、企業の人たちが帰った夜間は高齢者ばかりになってしまうのです。

高橋確かに今後は、このような地域の特性に合わせたよりきめ細かい対策を講じていくことが重要ですね。

白井今話題に出た夜間の災害対策についても、当社の課題として今後さらに検討していきたいと思います。この対策について次回の打ち合わせでもっと詰めて話し合いましょう。

大塚災害の備えは、これで十分ということはありません。今後も企業や行政の方たちと一緒になって地域の災害対策を改善していきたいですね。

大友私たち戸田建設も、この京橋一丁目地区の一員として、皆さんと力を合わせた活動を進めてきたいと考えています。本日はお集まりいただき、ありがとうございました。

京橋地域総合防災訓練

「京橋一丁目災害協議会」では、毎年9月に総合防災訓練を行っています。第7回目となった2011年は、戸田建設の社員をはじめとする約3千名が参加。震度6強の直下型地震を想定して、地区の各企業や周辺の町会で震災訓練や火災訓練を実施しました。

震災時の怪我人を想定した応急救護の訓練

京橋消防署の指導によるAEDの操作訓練

審査会で準優勝を獲得した戸田建設自衛消防隊

東京消防庁の特別救助隊による屋上降下訓練

防災リュックを背負って歩く集団帰宅訓練

煙体験ハウスで火災時の煙の怖さを疑似体験

  • 次の世代のために、私たちができること。
  • イクボスアワード
  • ECO FIRST
  • Science Based Targets