環境 TNFD提言に基づく情報開示
当社グループでは、自然関連の課題について、マテリアリティ(重要課題)に「環境と共生したインフラ整備」、「脱炭素社会の実現」を特定しています。当社は自然の機能を活用すると共に、環境に配慮した設計、施工を通じて自然への影響の回避・軽減および復元・再生に取り組んでいます。
当社の事業活動の内、建築事業、土木事業では掘削、造成、伐採、振動、騒音、構造物の施工等を通じて自然に影響を及ぼしています。さらに工事で使用するコンクリートや鉄骨等の様々な建設資材も、その原材料の調達や製造の過程で自然に関わっています。当社では、建築事業と土木事業、そして浮体式洋上風力発電事業を対象として、TNFD提言を基に事業活動を通じた自然資本への依存と影響の度合いをENCORE※1等を用いて試行的に分析した上でリスクと機会に相当する事象を検討し、当社の現状の取り組みについて整理を行っています。今後も、継続的に分析を行い、その結果をネイチャーポジティブな社会の実現に向けた活動に展開していきます。
TNFD提言の6つの一般要件と当社の考え方
一般要求事項 | 当社の情報開示における考え方 |
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マテリアリティの適用 | SSBJ基準※2とTCFD提言に整合したシングルマテリアリティで評価。 |
開示の範囲 | 以下を対象に評価を実施。 ・国内建設事業(建築事業および土木事業) ・五島市沖洋上風力発電事業 |
自然関連課題がある地域 | ・都市部、山間部、河川、港湾等(建築事業、土木事業は工事ごとに地域や工種等に固有の自然関連課題を有する) ・長崎県五島市沖(浮体式洋上風力発電設備の設置海域) |
他のサステナビリティ関連の開示との統合 | ・TCFD提言に基づく気候変動に関する情報開示との統合を考慮している。 |
考慮された時間軸 | ・短期 ・中期(2030年) ・長期(2050年) |
ステークホルダーとのエンゲージメント | (後述の「ガバナンス/リスクとインパクトの管理」を参照) |
- ※1ENCORE:Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposureの略。企業活動の自然への依存や影響の大きさを把握することを目的に、「自然資本金融同盟(Natural Capital Finance Alliance(NCFA))」及び「国連環境計画の世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCMC)」などが共同で開発したツール。
- ※2公財)財務会計基準機構内に設立されたサステナビリティ基準委員会(SSBJ:Sustainability Standards Board of Japan)が定める、日本のサステナビリティ開示基準。
ガバナンス/リスクとインパクトの管理
当社では自然関連の課題を気候変動と同様に重要な課題であると認識し、事業活動における自然資本への依存と影響の分析結果を基にリスクと機会の評価、対応に努めています。そのプロセスにおける経営者の役割、取締役会の監督、そしてリスクと機会の管理は、気候変動課題と同様の体制であり、自然関連の課題に対する具体的な議論は、サステナビリティ戦略委員会の配下に位置する環境エネルギー委員会で行っています。
自然関連の依存と影響、リスク、機会等は、気候変動と同様にステークホルダーへの影響も考慮した評価を行っています。人権に関わる課題やステークホルダーに関するエンゲージメント活動については、サステナビリティ戦略委員会を通じて社会活動委員会と連携して検討しています。なお、当社では「人権方針」において事業活動全体を通じて人権尊重の責任を果たしていくことを定めており、「調達ガイドライン」においてもサプライチェーン全体で人権を尊重することを宣言しています。
戦略
ENCORE等を用いて、事業活動の自然資本への依存と影響を分析した結果、建築事業、土木事業は陸上生態系、海洋生態系への影響が特に大きく、また、洋上風力発電は海洋生態系へ大きな影響を与える可能性があることも再確認しました。

- ※1ENCOREによる各工程の評価には、GICS(世界産業分類基準)における以下の産業サブグループを参考とした。
セメント類製造:建設資材、鉄鋼製造:鉄鋼、木製品の製造:林産品、建築・土木工事:建設・土木、建物使用:不動産運営会社、風力発電(陸上含む):再生エネルギー系発電事業者 - ※2ENCOREでは陸上風力発電による影響として評価
優先地域の特定
国内では、生物多様性国家戦略2020-2030において2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保存する「30by30目標」の達成を目指しています。当社では当目標における保護地域の対象でもある自然公園について、それに係る工事や事業を実施する場所を当社の自然関連の優先地域と考えています。なお、保護地域における鳥獣保護区や緑地保全地区、OECM※3等のエリアでは、当社の活動内容も鑑みて個別にその重要性を判断しています。
- ※3保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM:Other Effective area-based Conservation Measures)
当社では、事業活動の自然資本への依存と影響の分析結果を基に、自然関連のリスクと機会に相当する事象を評価・特定しています。
自然関連のリスクと機会
リスクと機会の分類 | リスク・機会 | 時間軸 | 備考 | |||
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考察 | 対応策 | |||||
リスク | 移行 | 技術 | ・生物多様性保全・ミティゲーションに資する技術提案力不足による受注機会の逸失 | ・技術開発の推進と施工実績の蓄積 ・「自然共生サイト」の登録によるノウハウの蓄積 |
短/中/長 | |
評判 | ・浮体式洋上風力発電の生態系への影響 | ・五島市沖洋上風力発電事業における継続的なモニタリング | 短/中/長 | |||
物理 | 慢性 | ・気温上昇による労働生産性の低下および作業者の健康リスク | ・施工の省力化・無人化の推進 ・作業者の健康管理デバイスの導入 |
中/長 | TCFDと共通のリスク | |
急性 | ・保有不動産の水害等による被災 | ・保有不動産および不動産取得時の水害等のリスク評価 ・水害対策と適切な保険加入 |
短/中/長 | TCFDと共通のリスク | ||
機会 | 市場 | ・環境配慮建築物の需要拡大 | ・設計施工物件全てを対象としたCASBEE評価 ・独自の「地球環境保全チェックシート」を用いた環境配慮設計の推進 |
短/中/長 | ||
・持続可能な木材による木造・木質建築物の需要拡大 | ・技術開発の推進と施工実績の蓄積 ・持続可能な木材調達の推進 |
中/長 | 気候関連の機会としても需要拡大 | |||
・グリーンインフラ技術の需要拡大 | ・技術開発の推進と施工実績の蓄積 | 中/長 |
当社の優先地域における取り組み
現在、当社を含む五島フローティングウインドファーム合同会社では、長崎県五島市沖において16.8MWの五島洋上ウインドファームを建設中であり、当プロジェクトを通じて脱炭素社会の実現に向けた浮体式洋上風力発電の拡大を目指しています。当海域は、再エネ海域利用法に基づいて当社が公募に応募し、国内で初めて洋上風力発電所として公募占有計画の認定を受けました。
五島列島の一部は西海国立公園に指定されています。当事業では、国立公園に指定された地区での浮体式洋上風力発電設備の設置・運転はありませんが、西海国立公園の景観や生物多様性の観点から自然にとって重要な地域であると考えています。
当事業では、環境影響評価法に基づく環境アセスメント※を実施しており、発電所の稼働に伴う騒音、超低周波音、鳥類や海域に生育する動植物、そして景観等の項目について環境保全措置を講じた上での評価を行い、その影響が実行可能な限り低減されていることを確認していると共に、本事業では、漁業従事者へのヒアリングや漁業影響調査等を実施して、地域や漁業との共存を目指しています。今後もその環境影響に注視し、十分な事後調査等にも取り組んでいきます。また、工事中についても浮体部建造の陸上ヤードは既存ヤードを利用することで新たな土地造成・改変等を不要とする等、様々な環境保全のための措置を講じています。
- ※現状の計画(16.8MW)ではなく、2018年当時の22MW(2.1MW×8基+5.2MW×1期)の計画で評価を実施。
その他、 2024年度には西中国山地国定公園の特別地域内で工作物の新設許可(風力発施設備の電気通信設備設置)を伴う土木工事がありましたが、適切な許認可を得て工事を進めています。

現地写真(2025年4月時点)

設置海域における風車の配置図
当社の自然関連リスク・機会に対する取り組み
当社では、自然関連のリスク低減や機会の創出について様々な取り組みを行っています。今後も自然関連のリスクと機会のより詳細な分析に努め、これらの取り組みの拡大を目指します。
・生物多様性保全・ミティゲーションに資する技術開発
当社は自然と調和した建材や工事中の騒音対策、産業廃棄物(汚泥)の削減等、自然に対する正の影響、または負の影響の緩和に寄与する様々な技術開発を推進しています。
・グリーンインフラ技術

ユニット型 壁面緑化ユニット
・施工時の騒音抑制

戸田式アクティブ騒音制御
システム「TANC」
・環境配慮建築物の設計を推進
当社は設計時に独自の「地球環境保全チェックシート」を運用し、同チェックシートで定めた環境保全80項目の内、各プロジェクトで35項目以上の採用を目標数とした環境配慮設計を推進しています。また、設計を行う全新築プロジェクトにおいて、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)による建築物の環境性能評価も行っています。

・中高層の木造・木質建築物の実現・普及に向けた技術開発
木材はCO2の固定・貯蔵効果を有することから、建築分野では脱炭素に向けた技術として木造・木質建築物の拡大が注目されています。当社では、適切に管理された森林の木材(持続可能な木材)を建築物に活用して森林資源の健全な循環を促すことは、自然に対してプラスの影響をもたらすと考えています。当社では中高層木造建築構法「P&UA構法」の開発等に取り組んでいます。
・筑波技術研究所の敷地全体の緑地を自然共生サイトへ登録
当社は2022年7月に環境省の「生物多様性のための30by30アライアンス」に参画しました。当社の筑波技術研究所の敷地全体の緑地について、令和5年度前期に自然共生サイトの登録を受けています。これらのノウハウも活かして、環境に調和した建物のご提案に取り組んでいきます。

写真 グリーンオフィス棟及び地域在来植物ビオトープ 「つくば再生の里」

・ 廃プラスチックの再資源化推進の取り組み
工事で発生する建設系廃プラについて、従来の主な処理方法は熱回収と埋立処分です。しかし、熱回収は多くの温室効果ガス排出を伴うため、マテリアルリサイクル※1、ケミカルリサイクル※2の拡大が求められています。建設系廃プラの内、塩ビ管や非塩素・硬質プラはプラスチック製品の原料としてマテリアルリサイクルが可能です。当社では、建設系廃プラの高度分別による再資源化を推進しています。
- ※1プラスチック製品の原料として再利用
- ※2高炉還元剤、コークス炉化学原料化等として再利用

・ 持続可能な型枠合板の使用に係るアンケート調査を実施
持続可能性に配慮した建設資材の調達が重要性が高まっている中、国内のコンクリート工事に使用される型枠合板の多くは外国産材(マレーシア、インドネシア等)であり、その一部では違法伐採による人権や環境破壊への懸念がNGO等より指摘されています。当社は持続可能な型枠合板使用の推進を目的に、当社の建設現場における型枠工事の協力会社を対象とした、認証材や国産材の使用状況に関するアンケート調査を実施しました。
アンケート結果より、当社の建設現場で使用している型枠合板の52%程度が認証材または国産材であり、その大半が外国産材の認証材であることが把握できました。それら外国産の認証材は、その75%以上がマレーシアサラワク州のPEFC認証材であることも分かりました。
アンケート調査の自由意見より、型枠合板は一度カットすると認証材の証明となる捺印管理が困難になることや、CoC認証※の取得・維持のコストが懸念事項となる等、認証材の更なる使用拡大に向けた課題を確認することができました。
今後も協力会社、サプライチェーンにおける課題の把握、解決への取り組みを通じて持続可能性に配慮した建設資材の調達を推進していきます。
- ※森林管理(FM)認証を受けた森林から産出された木材等を、適切に管理・加工していることを認証する制度。




指標と目標
当社では気候変動に関連したGHG排出量をはじめ、建設副産物の最終処分率、廃プラスチックの排出抑制、再資源化等率、生物多様性に配慮した技術提案数等、事業活動が環境へ負荷を及ぼす可能性ある様々な指標のデータを収集・管理しています。